七日目の風呂

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――髪の毛がゴッソリ抜けた。これは抗がん剤の副作用だ。

 

そんなわけがない。一週間風呂に入らずに髪の毛を洗うとこうなるのだ。びっくりするくらい髪の毛が抜けるから、ちょっとしたホラーを味わいたい人はぜひ試してみてほしい。

 

そしてわたしは、久々のシャンプーを楽しみながらあることを学んだ。それは「シャンプーをケチってはいけない」ということだ。

金に余裕もないくせに、わたしはシャンプーとトリートメントだけはサロン専売品を使っている。たかがシャンプー、と思われがちだが、では美容室で髪の毛を切った時のあのシャンプーと、自宅で使うドラッグストアで買った安物とで、同じ使用感と言えるだろうか。間違いなく別物だろう。

 

美容室のシャンプーはたしかに高い。しかし、高いなりに成分が違うのだ。逆に安く作れるということは、材料もそれなりのものでしか作れない。たとえば自然界にある原料で作ろうと思えばそれなりに金がかかる。だが、石油などから人工的に作られるものならば、安価で大量生産が可能となる。

髪の毛や頭皮に口がないから文句も悲鳴も聞こえないが、実際にしゃべることができたならば、とてもじゃないが市販のシャンプーを使い続けることなどできまい。

 

そして高価なシャンプーとトリートメントを使うということは、必然的に量をケチることになる。少量でなんとか洗いきるためにも、わたしはショートカットを貫いてきたのだから。

さらに納得がいかないのが、同量のシャンプーとトリートメントにもかかわらず、トリートメントのほうが先になくなる現象が起きることだ。思うにトリートメントは粘度が高いため、同じくプッシュすると液体であるシャンプーより多く出てしまうのだろう。

よって、トリートメントのプッシュを軽くするなどして、量の調整をしながら使うこととなる。

 

こうなると、ケチってプッシュしたシャンプーに、さらにケチってプッシュしたトリートメントというギリギリの組み合わせにより、満足のいく洗髪ができない場合がある。とくに本日のように髪の毛も頭皮も脂まみれで汚れている場合、少量のシャンプーでは頭皮から脂を絡めとることができない。となるともう一度シャンプーすることに――。

これこそが無駄ではないか!!

ケチった代償として再度シャンプーをするなど愚の骨頂。だったら最初からしっかりプッシュして、十分な量のシャンプーで洗浄すべきだ。どうせ週一のシャンプー、毎日洗うことを思えば多少無駄に使ったとてお釣りがくる。

 

このとき、わたしはふと「生蕎麦」を思い出した。

わたしの得意料理である、鍋をつかわずに蕎麦を茹でるアレだ。作り方は簡単、まずはティファールでお湯を沸かし生蕎麦にぶっかける。そして蕎麦を揺らしたり持ち上げたりしながら、湯が真っ白になるまで動かす。その湯をマグカップへ移すと、再びティファールから残りの湯を注ぎレンジで2分加熱。すると美味い蕎麦の完成となる。

 

当然ながら貧乏性のわたしはここでも湯をケチった。なるべく少ない湯で蕎麦をゆがくほうが、濃厚なそば湯ができると踏んだわたしは、蕎麦がギリギリ湯につかる程度の熱湯を注いだ。その結果、蕎麦が湯を吸い取ったのか、伸びきったラーメンのどんぶり状態となり、美味いそば湯など採取できなかった。

結局、だらしなく伸びた麺へ湯を継ぎ足すが、中途半端にできあがったそば湯などイマイチで怒りと後悔しか残らない。

 

(こんなことなら初めからたっぷりと湯を使うんだった・・・)

 

あのときの後悔を今、シャンプーをしながら思い出す。そうだ、わずかなケチりが後悔を呼ぶんだ――。

わたしはおもむろにシャンプーをプッシュする。いいじゃないか、ここで普段の倍の量をつかったところでたったの2日分。普通に考えたら7回プッシュするところを、2回で済むんだからかなりの得だ。さらにトリートメントは一回分でいいのだから、そのワンプッシュもケチらずに堂々と押せる。一週間ベースでみればお得でしかない!

 

こうしてわたしは、シャンプーも蕎麦も液体をふんだんに使うほうが得であることを覚えたのである。

 

サムネイル by 希鳳

 

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