食べたいのは美味い弁当か?普通の弁当か?~食で繋がる地域と未来~

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農福連携、という言葉を聞いたことがあるだろうか?

「農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組です。農福連携に取り組むことで、障害者等の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。(農福連携とは/農林水産省

農林水産省は、このようなビジョンで農福連携を推進している。小難しいことは抜きにして、平均年齢68歳という顕著な高齢化が進む農業界の担い手として、障害者雇用は貴重な人材確保になりうるということだ。

 

適材適所という言葉がフィットするかどうかは別として、消費者から求められる商品を作り出すことができれば、そのビジネスは成長するだろう。

そして障害者と一言にいっても、身体、精神、知的と障害の範囲は広い。個々の能力や経験、適応力によって、できる仕事とできない仕事がある。

つまり商品のクオリティーや販売規模、作業工程や人員配置を工夫することで、消費者の購買意欲をかき立てる、素晴らしい商品を生み出すことができるのだ。

 

そんな弁当とお茶に、私は今日出会った。

 

 

「やっていることに満足するだけではダメ。ちゃんと美味しいものをつくらないと」

 

そう語るのは、クリエイティブディレクターでありプロデューサーの、望月重太朗氏。彼の自信作である「翠茎茶(すいけいちゃ)」を注いでもらいつつ、話に耳を傾けた。

ちなみに「翠茎茶」が、なんの野菜からできているか想像がつくだろうか?実はこのお茶、彼の地元である練馬区の農園で、これまで捨てられていたアスパラガスの茎の根もと部分で作られたほうじ茶なのだ。

コーン茶よりも飲みやすく、ほんのりアスパラの風味と柔らかさを感じる翠茎茶は、ノンカフェインのため女性陣に人気。とくに、葉酸不足が気になる妊娠中の女性にとって、サプリメントよりも自然な状態で摂取できる翠茎茶は、あらゆる意味で安心安全の逸品といえる。

 

さらに望月氏はこう続けた。

「農福だけでなく、そこにクリエイティブ、つまり『創』を加えることで、新たな経済循環モデルを構築できるんです」

これまでの農福連携に、経済・価値の循環をプラスしたらどうだろう――。そう考えた望月氏は、農福に「創」をはめ込み、農・創・福という新たなエコノミーサイクルを誕生させたのだ。

 

じつはこの翠茎茶、アスパラガス農園で廃棄処分となっていた茎の根元を、地元の福祉事業所にて焙煎・加工し、望月氏経由で販売するというスキームでできている。

既存の野菜と既存の加工場所をフル活用することで、無駄な投資の必要もなく新たなビジネスが誕生したわけだ。

 

「この弁当も同じです。練馬の野菜だけでなく、日本全国のこだわり食材でできています。作ってくれたのは、地元の福祉作業所の人たちですよ」

 

そう言いながら、クラフト色のランチボックスを手渡された。その男性は、練馬区でピッツェリアを経営する、というか、私の友人である岩澤正和氏だった。

岩澤氏のレシピとあればイタリアン、と思いきや意外にも「のり弁」だった(実際は、のり弁とイタリアンの2種類があるとのこと)。

そしてこの弁当には「みんなのおべんと。」という、シンプルかつチャーミングな名前が付いている。健康を後押しする厳選素材に、洒落たパッケージとくれば、丸の内OLたちがランチで殺到しそうな勢いである。

 

素材が厳選されていることは分かるが、長崎直送のアジフライにかかっているタルタルソースまでもが自家製と聞くと、なんだかもったいなくて早食いはできない。練馬野菜のピクルス入り手作りタルタルソースだなんて、ソースだけをペロペロ舐めても美味いじゃないか。

 

この丁寧な調理技術を提供するのは、同じく練馬区にある特定非営利活動法人あんずの家で働く利用者の皆さんだ。

就労継続支援B型事業所である「あんずの家」は、かつては民家を改造した和食レストランだった。そのため本格的な調理設備も整っており、具材の切り方や味付け、そして盛り付けまでがきちんとこなされている。

ちなみに、弁当のレシピや調理工程のサポートは岩澤氏が行う。そんな食のプロが見守る中、あんずの家で作業に従事する皆さんの手で作り上げられた「みんなのおべんと。」は、練馬区で開催されたマルシェで大人気となった。

 

そして言うまでもないが、翠茎茶もみんなのおべんと。も、間違いなく美味い。農福連携だの地域密着だの、かっこつけた字面など要らない。口に入れればわかる、上質な美味さがあるのだ。

望月氏の言葉がよみがえる。

「ちゃんと美味いものを作らなきゃ、ダメなんです」

たしかにその通りなのだ。さらに氏いわく、

「『福祉だから安い』ではなく、『ちゃんとした味を届けるのだから、ちゃんとした値段で販売する』というスタンス」

なのだ。誰が作ったとか、どんなバックボーンがあるとか、それはそれで魅力的なストーリーになるだろう。だが、最終的に人々から求められる商品というのは、その本質を維持していなければ歪が生じる。

つまり味が担保された上で、農福連携や地域密着という要素が加わらなければ意味がないのだ。

 

――なぜならこちらは、お情けで買ってもらおうなんて気持ちはこれっぽっちもない。素材と味で十分に勝負できる商品を提供しているのだから。

 

 

腹が減ったから弁当を食おう。美味い弁当と普通の弁当がある、さてどちらを選ぼうか。

 

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