朝、ようやく眠りについたところを玄関のチャイムで起こされる。
ーー土曜日くらい朝寝坊させろよ
舌打ちしながらモニターを覗き込むと、ヤマトのお兄さんが立っていた。小脇に抱える段ボールは食べ物と推測。
「お届け物でーす」
食べ物ならばウェルカムだ。すぐさま上がって来てくれたまえ。
手渡された段ボールには、大きく「いちご」というシールが貼られている。そう、いちごが送られてきたのだ。
ーーこれは幸先の良い一日のスタートだ!
*
いちごの名前は「古都華(ことか」)。
2011年に品種登録されたばかりの、奈良県生まれの若手いちごだ。
いちご好きのわたしにすれば、どんないちごでももらえば嬉しいが、関西方面のいちごはあまり縁がないので、プレミア感も加わりさらに嬉しい。
ちなみに送られてきた30粒のいちごは、5分とかからずにこの世からいなくなった。
パックを覆っていたセロファンを剥がし、ヘタをつまんで無心に口へと放り込むうちに、気付けば「果物界のルビー」は跡形もなく消えていた。
残るは、無造作に散らばるヘタの残骸のみ。
ーー先に写真撮っといてよかった
友人へお礼を言うのに、念のため食べる前にいちごを撮影しておいてよかった。
そんな自分の理性を誉めた。
*
「これを1パック使った『古都華パフェ』が有名なんですよ」
そう言いながら、とんでもない巨大松ぼっくりのような「イチゴパフェ」の画像が送られてきた。
「なんだこりゃ!?大変なことになってる!」
「予約争奪戦が起きるほど、大人気のブランドいちごなんですー」
これは見事だ、見事すぎる。一般人ではとうてい食べ切れないサイズと見た。ぜひとも挑戦したいーー。
しかし友人の一言で夢は打ち砕かれる。
「予約が取れないんで、来ても食べられませんよ笑」
なにー!!そんな理不尽なことがあるのか!
「ケーキ屋さんもこぞって買ってはりますよ。そのくらい甘くておいしいいちごなんで」
そもそも品種改良されてからまだ日が浅いため、生産量が少ないらしい。よって、そうたやすく手に入るものではないのだ。
ということは、友人はケーキ屋と死闘を繰り広げたあげく、「古都華」を奪取してくれたのだろう。さすがは格闘家、ありがたや。
*
いちご評論家(自称)のわたしからすると、「古都華」の特徴は「繊細さ」と「糖度の高さ」そして「果皮の深紅さ」にある。
普段、手軽に食べているいちごは「とちおとめ」や「紅ほっぺ」、「女峰」、「あまおう」など。いずれも十分な甘さにほどよい酸味、そしてしっかりとした果実が満足度を上げてくれる逸品である。
だが「古都華」は一言で表すならば、「非常に繊細でメンヘラな美少女」といった感じ。それほどまでに果肉はキメが細かく繊細で、ヘタの根元までしっかりと甘さが行き渡っている。
そして何よりも、果皮の深紅さが異常。
「ルビー」という称号を手に入れられる果物はどれか?というコンテストがあれば、間違いなく「古都華」が優勝するだろう。
そのくらい、「ルビー」と例えられる他の果実、たとえばさくらんぼやリンゴ、ザクロなどと比べても、圧倒的な「ルビー感」を醸し出しているのだ。
さらに深紅のルビーが映える色と言えばホワイト。ということは、「古都華」が映えるのは「ホイップクリームの上」となる。
ーーフリフリレースの真っ白いワンピースを、妖艶に着こなす美少女・古都華。
これこそが、予約すらできないほどの大人気商品「古都華パフェ」の、真の姿だ。
色んな意味で一度は口にしてみたい、垂涎(すいぜん)の一品である。
*
あぁ、それにしても一瞬の出来事だった。
どうやらわたしには、「味わって食べる」という機能は搭載されていないようだ。
ーーせっかく希少ないちごが送られてきたというのに、5分ともたずに消えてしまった。
しかも、いちごを貪(むさぼ)る間の記憶がない。唯一覚えているのは、
「あれ?もうない!」
だった。
どんなに高価で貴重な食べ物でも、じっくり味わうことなく一瞬で胃袋へと葬るため、
「アイツには与えないほうがいいんじゃないか?」
と巷では噂されている。
・・まぁその通りかもしれないが。
だがこのスタンスを変えるつもりはない。
1分後に災厄に見舞われ、運悪く死んでしまったとしても後悔のないように、うまい物はさっさと体内へ送り込むのがモットー。
言い訳はともかく、「古都華」は最高に美味いいちごだった。
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