お気に入りのパン店の一つに、ゴントラン・シェリエというフランス発祥のベーカリーがある。
店の名前でもあるゴントラン・シェリエ氏は、ノルマンディー出身の四代目ブーランジェ・・と聞くと、カタカナの羅列だけもオシャレで凄い感じがするが、日本で例えるならば「長崎県出身の、四代目パン職人・馬場清之介」というイメージだろうか(いや、決してディスっているわけではない)。いずれにせよ、パンと深い造詣を持つ家柄のブーランジェであることは間違いない。
そんな彼は「世界中の家庭に、カリカリっとした本格的なフランスパンや、サクサクのクロワッサンを届けたい」という強い思いを描いた結果、アジアや南米、中東など10カ国以上の地域で店舗展開するほどの、人気ベーカリーへと成長を遂げたのだ。
中でも、わたしのイチオシでもある"クロワッサン"が素晴らしいのだが、それもそのはず。ファッション雑誌のアイコニックである「VOGUE PARIS(ヴォーグ・パリ・・現在ではヴォーグ・フランスに改名)」にて、"パリで最もおいしいクロワッサンの一つ"に選出されたことがあるのだ。
そしてクロワッサンといえば、バターによってその味が左右されるといっても過言ではないわけだが、ゴントラン・シェリエではノルマンディー産のバターを使っており、バター界の王様と謳われるエシレに引けを取らない美味さなのが特徴。
極めつけは、「Croissant au matcha et haricots rouges(クロワッサンあんこ抹茶)」の存在である。抹茶フリークのわたしからすると、"抹茶"と名のつくものは「とにかく一度、口に入れてみる」というのが鉄則だが、そこへ憎き敵である"あんこ"が付着していると、ちょっと尻込みしてしまうのも事実。
殊に和菓子は、かなりの確率で抹茶とあんこがセットにされており、幾度となく苦い思いをさせられてきた。とはいえ、店によっては注文時にあんこを取り除いてくれたり、あんこだけを友人の皿に載せたりと、あんこを避けることで抹茶を救出することもあるが、あんこが包まれていたり練り込まれていたりすると、それすらも不可能。こうなると、抹茶自体を泣く泣く断念せざるを得ないのである。
ところが、ゴントラン・シェリエの「あんこ入り抹茶クロワッサン」に関しては、あんこ嫌いのわたしでも食べることができるのだ。その理由の一つに、あんこ自身が「小豆の存在感を控えめにしている」ことが挙げられる。
クロワッサンの内側にしっかりと詰め込まれたあんこは、決して少なくはない量だが、あんこ自体の味がいわゆる「あんこあんこしていない」ので、心を無にすればなんとか食すことができるのだ。
もちろん、あんこなど入っていないほうが助かるが、ゴントラン・シェリエ氏のレシピに文句をつけるわけにもいかない。そんなことよりも、抹茶風味が練り込まれたクロワッサン生地にかぶりつくことのほうが重要であり、やはりわたしが「無の境地」に達することで、あんこの存在をなかったことにするのが一番の対処法といえる。
しかも不思議なことに、あんこ入りの抹茶クロワッサンをレンチンすると、なぜかあんこの雑味が抑えられる・・という裏技を発見したわたし。そのまま食べると、より顕著にあんこの存在感が口の中に広がるが、レンチンするだけでスイートポテトっぽい風味・・というか舌触りに変わるのだ。
まぁ、どちらもペースト状の似たようなテクスチャーだから、心を無にした結果、その区別がつかなくなっているだけかもしれない。だが、わたしからするとものすごい功績をつかみ取った気分だった。
——これなら、いくらでも抹茶クロワッサンが食べられる。
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というわけで、ゴントラン・シェリエにあんこ入り抹茶クロワッサンが並べられていたら、トレーごと買い占める・・という習慣ができたのである。
これも偏(ひとえ)に、レンジという文明の利器のおかげ。もしもレンチンしなければ、せいぜい2,3個が限度・・というか、あんこの嫌味に耐えきれず、抹茶クロワッサンを楽しむことができなくなるだろう。そんな不幸から救ってくれたのが、レンジによる加熱というライフハックだったのだ。
当たり前のように組まれる「抹茶とあんこのコンビ」には常に迷惑を被っているが、それでも抹茶への愛情が薄れることはない。だが願わくば、ストーカーのように執着してくるあんこの存在から、可憐で儚い抹茶を切り離してもらえると、こちらとしては非常に助かるのである。
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