連打の狂人

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遊びでも仕事でも、地方へ行く際はネットで飛行機のチケットを取り、適当に安いホテルを予約するのが私のやり方だ。交通手段が新幹線の場合など、乗る直前に切符を買うのが当たり前というくらいに、前もって準備などしない主義である。

 

しかし今回、友人から「JALダイナミックパッケージタイムセール」という、普段ならば絶対に見もしないサイトのリンクが送られてきたので、チラッと覗いてみた。

これはJALの航空券と宿泊がセットになったパッケージで、タイムセールの期限はあと5日。全国各地のJAL提携ホテルと航空券がセットになっているようだ。そして、

「安いといっても、どうせ格安旅行サイトには敵わないだろう」

と、さほど期待もせずに適当なホテルを見た私は、おもわず目ん玉が飛び出そうになった。

 

(な、なんと、東京から大阪までの往復航空券とホテルが、セットで一万五千円?!)

 

これはとてつもなく驚愕の安さである。たとえるなら、東京から大阪までの新幹線自由席の片道運賃に匹敵する。グリーン車になど乗れば即座に足が出る。

これはいったいどういうことなのだ?!仮に大阪まで新幹線で往復し、適当なホテルに泊まったとしても三万五千円は覚悟しなければならない。移動中に仕事がしたいからと、グリーン車など乗った際には、新幹線代だけで四万円が飛ぶ勢いだ。

にもかかわらず一万五千円で往復できて、なおかつ、そこそこのホテルに泊まれるとあらば、意味もなく地方へ出向くのも悪くはないのではないか?

 

 

そして私はさっきから、かれこれ3時間以上もこのサイトから離れることができない。その理由は、日付をまたいだ瞬間に金額が跳ね上がったからだ。

(そんなはずはない、さっきまで絶対に一万五千円だったのに、なぜ今は二万五千円もするんだ?!)

半ばパニックになりながらも、何かの間違えではないかと検索ボタンを連打する。だが悲しいかな、金額は二万五千円のまま動くことなく今に至る。

 

無論、二万五千円でもめちゃくちゃ安い。宿泊代込みの値段なのだから、お得感は満載である。

だが人間というものは、一度でも安い金額を提示されてしまうと、その呪縛から逃れることはできない。ましてや、ついさっきまでニヤニヤと眺めていた金額が、0時になった途端に跳ね上がったのだから、目を疑うというかパソコンを疑うというか、JALを疑うというか。

(おかしい!クソッ、なんでなんだ!)

ためしに予約日を翌日に変えて検索してみたところ、これまたびっくり、さっきまでの安い金額が表示されたのだ。つまり、「何日前まではものすごく安い」という決まりがあるようだ。

 

それでも納得のいかない私は、

「もしかすると急に金額が爆下がりするのではないか」

という淡い期待を込めて、さっきからずっと、何回も何十回も検索ボタンをクリックし続けている。もはや半狂乱といった状態である。

 

狂ったついでにこのパッケージの仕組みを見てみると、デフォルトで指定されている便があり、それを変える場合にはフライト差額として、いくらかの追加料金が発生する。安ければ100円、高い場合は1万円近くかかる。

とはいえデフォルトの便は羽田発6時半という、早朝すぎてまだ夢の中の便のため、これは変更せざるをえない。そして帰りの便も羽田着22時半、いわゆる最終便である。これでは遅すぎるわけで、こちらも時間を変更することになるだろう。

こうなると、ほぼ確実に追加料金が発生するため、さすがに一万五千円では無理。つまり、二万五千円までは覚悟しなければならないわけだ。しかし二万五千円でも、まだ顔はニヤけるレベルである。新幹線自由席の往復よりも安いわけで、浮いたカネで豪華な弁当が買えるからだ。

 

ところが、日付をまたいだ瞬間に金額が高騰したのだ。さっきまで一万五千円だったものが、急に二万五千円まで跳ね上がったのだ。さらに、相変わらずデフォルトは始発と最終便のため、変更するのに一万円を上乗せしなければならない。

そしてこの事実を受け入れられずにいる私は、さっきから延々と検索ボタンを連打する狂人と化したのだ。

 

これが漫画ならば、時を少しだけ戻してどうにかするのだろう。あの能力があれば、昨日の23時55分あたりに戻って、意気揚々と検索ボタンをスマッシュするだろう。

あぁ、私が無能な貧乏人ゆえに、このような取り返しのつかない過ちを犯したのだ。悔やんでも悔やみきれないとはまさにこのこと。

 

(・・・もう少しだけ、検索ボタンを連打してみよう)

 

サムネイル by 希鳳

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