即応傭兵に招集命令下る

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「URABEさん、戦争がはじまりますよ」

 

突然、悪友からLINEが届く。彼はフィリピンのミンダナオ島に拠点を持ち、日本と東南アジアを股にかけてビジネスを展開する、違法臭プンプン漂う悪い奴である。

 

彼と私はラスベガスにある軍事施設で、スナイパーライフルやマシンガン、自動拳銃など10種類ほどの銃の訓練を受けた仲。3キロ先のアルミ缶を狙い撃ちしたり、20メートル先のターゲットにハチの巣どころか一つの大穴を開けたり、遠近ともに射撃の腕を上げた。

私はどちらかというと正攻法で戦うタイプのため、時には慎重すぎてタイミングを逃すこともある。だが彼はまさに無鉄砲そのもので、ターゲットが目に入れば照準が合っていなくても引き金を握ってしまうような、そんな短気で荒っぽい気質の男。

我々を足して2で割ればちょうどいい傭兵が仕上がるはずだが、そうもいかないのがこの世の常。お互いに、それぞれの特徴を生かした攻撃を磨きつつ、その時が来るのを待っているわけだ。

 

近接戦闘術として徒手格闘を得意とする我々だが、日頃の練習はもっぱらブラジリアン柔術を行っている。攻撃というよりは、体の使い方や防御の仕方を確認するのが目的。

赤坂にあるジムで軽く汗を流す程度だが、傭兵という職業柄、疲弊するまで追い込むのは誤りである。いつ何時でも戦闘態勢に入れるよう、体のケアこそが何よりも重要なルーティンワークといえるのだ。

 

とはいえ、最近の戦争の主流は近接戦や物理的な破壊活動ではない。電波や衛星を狙った、もはや見えない部分での戦いとなっている。

人間のような柔な物体が最前線に出ていくメリットなど何もない。攻撃されても替えのきくラジコンカーやドローンなど、機械が目となり敵地に侵入できる今、必要なのは頭脳戦といえる。

インフラの主流である電気ガス水道ですら、コンピューターで制御されている現代において、インターネットの遮断はかなりの痛手となる。情報収集にせよ、伝達手段にせよ、十中八九がインターネットを介して行うわけで、そこが使えないとなるともはや陸の孤島に取り残されたも同然となる。

 

インターネットによる暴走を食い止めるためにも、核爆弾のボタンは手動だと聞いたことがある。これならば、人間をコントロールしないかぎり誤発射といったミスは起こせないからだ。

個人情報のみならず企業におけるマル秘情報や国家機密でさえ、インターネット上に格納されている現在。それらを抜き取ることは戦争の火蓋を切ることを意味する。そのくらい、フィジカル環境よりもデジタル環境にすべてが移行しているわけだ。

 

とはいえ、最後の最後はやはり人間だろう。目の前の敵を殺す方法はいくつもあるが、丸腰で対峙したら己の身体という唯一の武器で戦うしかない。…そんなことを、アメリカの師匠から再三聞かされたことを思い出しながら、なまった腹をさする。

(最近、ぐうたらな生活しかしていないからな・・)

戦闘技術や知識の涵養に時間を充てていた分、体は衰え体重は増える一方だった。仮に今、敵から襲撃などされれば、私は一瞬でやられるだろう。

 

銃を所持しているが、ここ日本においては銃や火薬の管理はかなり厳重であり、突然の襲来に遭ったらアウトだ。両手をあげて降参するしかない。いや、降参で捕虜にでもなれたらラッキーだ。その場で殺される可能性だって十分あるわけで、寝ている間も常に神経を尖らせる状態が続く。

このストレスフルな生活が嫌ならば、私自身が傭兵という職業を選ばなければよかっただけのこと。自業自得である。

 

そんな私の元へ、バディともいえる悪友から戦争開始の通知が届いたのだ。

「日曜日、戦争がはじまります」

いったいどういうことだ?なぜ急に決まったのだ?

「自分は早めに行って並びますから、URABEさんも必ず来てください」

奴が私に助けを求めることなど、過去の訓練でも記憶にない。それが突然、このようなメッセージを送ってくるとは――。

 

「URABEさん、あなたのための戦いです」

 

この言葉に、私の中で何かが爆発した。行くしかない。どんな理由であれ、戦いに挑むしかない。とにかく敵を倒して日本を守らなければならないのだ。

 

「90分一本勝負、パフェは5種類。これで2,500円は安すぎます。日曜日で客も大勢来るだろうから、そっちも戦いになります。気合いれて挑みましょう」

 

ラジャー。久々に傭兵・URABEの本領発揮といこうではないか。

 

サムネイル by 希鳳

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