紙からデータへの過渡期に、活躍するのは10本の指である。

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このご時世、書類のデータが存在しないということは、ある種の致命傷といえる。

たとえば、就業規則の変更をするとしよう。既存の就業規則では、定年が60歳と書かれているが、新たに65歳に変更しようとしたとき、実務上は変更箇所のみを労働基準監督署へ届け出ればOK。しかし、これは紙の就業規則が前提となる話である。

仮に、分厚い図鑑のような立派な就業規則を変更するのに、表紙からすべて出し直すとなれば、膨大な紙と時間とカネが必要となる。そんな面倒で無駄な作業を省くためにも、変更箇所だけを届出ればいいということになっているわけだ。

その点、PDFやWordなどのデータ形式で作成すれば、変更や修正も迅速にできる。さらにデータをそのまま電子申請すれば、それこそいま流行りのペーパレスが実現できるのだ。

 

以上のことから、わたしが就業規則を作るならばデータ以外はありえない。

そもそも、物理的な「本」としての就業規則が存在し、それを手に取って読むのが当たり前という考えは、会社という物理的な箱が存在する大前提がある。しかし、完全テレワークだったり、書類保管スペースのないような店舗だったりすれば、物理的な場所という概念は存在しない。そうなれば、就業規則をデータで保管する以外に、従業員がいつでも閲覧できる状態を作ることはできないのだ。

昔のように、すべての従業員が会社へ出勤し、与えられたデスクでパソコンと向き合うような作業風景はもう古い。しかも、紙の書類で保管をしておいて、火事で焼失したらどうする?地震や津波で行方不明になったらどうする?・・あらゆるリスクを懸念すれば、データで保管することこそが安全だと気づくだろう。

 

というわけで、10年前の就業規則を抜本的に修正する作業を引き受けたわたしは、紙でできた立派な就業規則を全ページ、スキャナーで読み込みPDFで共有してもらった。

——これをコピーしてWordにペーストすれば。フッフッフ、楽勝だぜ!

 

(・・・な、なんなんだコレ)

 

ちゃんとコピペできた部分もあるのだが、なぜか突然、半角のスペースがすべての文字の前後に入りはじめたのだ。しかもそれが、全体の6割くらいを占めている。ためしに、その部分に該当するPDFを再度コピペしてみたが、やはり同じように半角のスペースがびっしりと入っている。

変に間延びした字面が苛立ちを誘う。おまけになんだ、この暗号のような漢字の羅列は。しかも微妙に面白い感じで連なっており、これをわざと作るほうが至難の業だ。

 

「苫 乱 ¢ 蓄 詈 竺 云 写 是 ζ訳鼻≧選 伝 探 塾牲黒百ゑよt宿 ご阜 る 。」

「第14盈 融R豪 i採 沈五モニ町 皇侯建i重 伝里民ザ亀冨校重伝五毬盈転徒ラi吾 時 介 護 を 必 要 と す る 状 態 に あ る者」

「 1 塗曹夏 時 ∴:セ昆云撞象哲鍵兵未二五寃功急誓耳魯盈蔓織追拿黒a二写て|こ 藍蓬泳努雹 に対する賃金を支払 う。 」

 

・・こうなるならば、原本を見ながら鬼打ちしたほうが早い。というか、厚生労働省がリリースしている就業規則の見本を使えば、もっと簡単に完成させられるだろう。

ではなぜ、ここまでしてこの10年前の就業規則を活かしたいのかというと、とにかく内容が素晴らしいのだ。多分これは、どこかの弁護士が作成したものだろう。なぜそう思うのかというと、文中の言葉遣いが弁護士のソレだからだ。

しかも内容の整合性といい読みやすさといい、もはや完璧じゃないか。これをパクる、いや、利用しない手はない。是非とも勉強させてもらいたい!

 

 

それにしても、同じページ内にもかかわらず、なぜここから下はすべての文字の前後に半角スペースが入るのだろうか。AIをうまく活用することで、こういったバグがなくなる日も来るのだろうか——。

そんなことを考えながら、せっせとPDFの文字をWordへ手入力するわたし。

(よし、残すところは74ページだ・・・)

 

Illustrated by 希鳳

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