沸点の低い私は、すぐにムカつく。
「あいつ、マジでムカつくんだけど」
と、しょっちゅう友人へ愚痴る。
すると友人は、
「あいつ寝不足なんだろ(だから頭回らなくてムカつくこと言うんだろ)」
と交わす。
また別の日に、
「またあいつ、ムカつくんだけど」
と言うと、
「そうか、株で損したんだろ」
と交わされる。
他にも、
「コロナの感染者数が過去最高だったからだろ」
「ソシャゲのガチャで課金しまくったのに、ハズレしか引けなかったんだろ」
などとまったく関係ないあげくに、絶対違うであろう理由で交わしてくる。
*
昨年11月、機嫌の良い友人は私にこう言った。
「いまは株高だからね」
株高と機嫌とにどんな関係があるのか尋ねると、
「株買ってるやつは、チャートがそのまんまバイオリズム」
と教えてくれた。
なるほどそうなのか、と納得した直後、
「ファイザーのワクチン砲がさく裂して大変なことになった!」
「含み益300減ったのは、ファイザー製薬とあいつのせいだ!」
と、私がしょっちゅうムカつく相手のせいにしだした。
*
心理療法士・リチャード・カールソンは、
「自分の機嫌は自分でとる」
と著書に記している。
おっしゃる通りで、これさえできれば心穏やかに幸せに暮らせる。
自分に余裕があるとすべてが許せる。
自分の機嫌がいいと、全然ムカつかない。
実際のところ、相手などどうでもいいのだ。
すべては自分の状況によるわけで。
友人はいつも、どうでもいい理由で私の怒りを交わし続ける。
この方法は非常に高度なテクニックであり、かつ、非常に効果的。
ムカつく私をなだめるわけでもなく、ムカつく相手を責めるわけでもなく、ただ単にまったく関係のない「もの」や「こと」のせいにして、怒りの矛先を変えてしまうのだ。
そして最後にこう言った。
「あいつにムカつくのはあいつが悪いんじゃない。オマエのコンディションが良くないだけ」
これこそが、友人が吐いた最高傑作だと私は思う。
そうだ、私のコンディションが悪いだけなのだ。
*
後輩のグチに付き合った。
グチと言っても彼氏の文句だが、ベテラン(私)からしてみればそのムカつく部分について、
「そこも彼のチャームポイントだ、くらいに思ってやれよ」
という程度のかわいらしいもので、なにも目くじら立てて怒るほどのことではない。
とはいえ現在進行形の当事者にとっては、ご飯ものどを通らないほどのダメージらしい。
「でもさ、それアタシだったらどうよ?全然スルーなんじゃない?」
「あー、たしかに。全然なんとも思いませんね(笑)」
とどのつまりは相手を想う気持ちのデカさ。
大好きであるがゆえに不毛な争いを招き、相手を不快にさせてしまうのだ。
これだって自分のコンディションに左右されるだろう。
好き過ぎなければ気にもならないわけで、不安にならなければどうでもいいことなわけで。
だが、コントロール不能な感情こそが恋愛の醍醐味。
自分を的確にコントロールできるような恋など、恋ではない。
ドはまりしてこそ価値がある。
*
しかし「ムカつく感情」というのは、実は相手に依存している証拠でもある。
どんなに腹の立つ相手でも、
「私はこいつにドはまりしてるんだ」
と思えば、それはそれでなんとなく許せてしまうのではないか。
そもそもムカつく相手にどハマりだなんて、想像するだけでバカバカしく、それだけでも笑えてくる。
これこそが究極の平和的解決だろう。
Illustrated by 希鳳
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