厚顔無知

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(あれ?耄碌(もうろく)したのかな?)

 

一瞬、真剣にそう思ってしまった。

あれほどまでに威勢よく、大勢の前でわたしに向かって、

 

「社労士の仕事など、われわれ税理士にもできる。周知の事実だ!」

 

と言い放ったベテラン税理士が、まさかわたしに「算定基礎届と総合調査の依頼」を打診してくるとは。

 

虚言壁があるのか、あるいは年齢的に脳の機能が衰えたのか、いずれかでなければ受け止め難い衝撃を覚えた。

 

 

税理士や社労士など、名称を聞いたところで何がどう違うのか、分からない人がほとんどだろう。

 

「税理」と言われれば税金に関することかな?と予測できるが、「社労」ってなんだよ。想像すらつかない人が多いのではなかろうか。

 

個人的には社労士のバッジに不満がある。

なんとローマ字で「SR」と書かれており、どう考えても「会保険務士」の頭文字でできている。

 

士業バッジとして最も価値のある弁護士バッジは、外側を「ひまわり」が囲み、中央に「秤」が描かれている。ひまわりは正義と自由を、秤は公正と平等を表しているのだ。

 

このような尊いデザインではないにせよ、せめて、ソーシャルセキュリティー(社会保障)とレイバーロウ(労働法)の頭文字をとって「SL」くらいにしてほしかった。

 

なぜならバッジのマークを見た人から、

「SRってなんの略?」

と聞かれるたびに、社労士の頭文字だと説明して哀れな目で見られるより、英語表記の頭文字だと胸を張って説明するほうがカッコいいからだ。

 

話が逸れたが、税理士と社労士の仕事の違いは、一般人からすると分かりにくい。

だが当事者からすると、全く異なる仕事なのだ。

 

スポーツ競技として、一般的に違いが分かりにくいもので考えてみよう。

たとえば柔術家に向かって、

「柔道経験者なら、誰でも柔術くらいできますから」

と言われたらどう思うだろうか。

 

他にも、

「クレー射撃やってるから、エアライフルなんて簡単ですよ」

などと言われたら、AR競技者はどう感じるだろうか。

 

まず「ありえない」のは当たり前だが、知らないというのは恐ろしい。

柔術を下に見る柔道家、エアライフルを撃ったことのないクレー射撃選手ーー。

その競技を知らないのだから、間違った考えを持っても仕方ない。

 

だが、間違った考えを基に発言をすることは、断じて許されない。

 

選手への侮辱ととれるし、競技に対する冒涜に他ならないからだ。

また、そう軽々しく「できる」と言えてしまう人間は、所詮、そのレベルの実力と認識でしかないわけで、それをあたかも「世界を知ってる」と勘違いして発信してしまうのは、恥以外の何物でもない。

 

税理士と社労士の業務内容も、クライアントからすれば違いがよく分からないため、

「どっちでもいいから、ちゃんとやってよ」

という程度のことかもしれない。

 

だが実際のところ、法律が違う、監督官庁が違う、そもそも国家試験が違う。つまり、やっていいことといけないこととが、法律で分けられているのだ。

 

にもかかわらず、冒頭のベテラン税理士はわたしに、

「社労士の仕事は税理士にもできる」

と笑いながら断言したし、彼の部下たちもそれを否定しなかった。

 

それが、だ。

 

まさか忘れたとは言わせない。

たかだか半年しか経っていないのに、あれほど勝ち誇った表情でわたしに吐き捨てたセリフを、忘れたとは言わせない。

 

そしてなぜ今回、社労士に依頼をしようと思ったのか。その理由も明白だった。

 

毎年この時期に「算定基礎届」という、社会保険料の等級を決定する手続きが行われるが、今回、それと同時に「総合調査」というやっかいな調査がくっ付いてきたのだ。

そのため、専門外の調査に関しては税理士ではさすがに不都合がある、ということで社労士のわたしに打診してきたのだろう。

 

この分かりやすすぎる豹変ぶりにも、腹が立つというより呆れる。

 

結局のところ、迷惑を被るのはクライアント自身だ。

税理士だの社労士だの、どうでもいいしどっちでもいい。とにかく適正に処理を行ってくれれば、それでいいのだから。

 

 

ーーと、5秒ほど頭の中で思いを巡らせる。

無論、その先についてはまだ検討すらしていない。

 

だが、

「他人のフィールドを踏みにじると、いずれ自分の首を絞めることになる」

ということを、自戒の意を込めて綴ってみた。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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