アレン様

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「なにかいいことあったの?いつもよりニコニコしてるから」

そう尋ねられたとき、「なるほど、他人からはそう見えるのか・・」と、本来ならば喜ぶべきところで逆に傷ついた記憶が蘇る。

その時わたしは、とてもじゃないが良い気分ではなかった。だが、それを顔に出したのでは友人や仲間に対して失礼だし、自分の機嫌を他人に知らせる必要もないので、嫌な気分に暗幕をかぶせてあえて笑顔を作っていたのだ。

 

無論、”いいことがあって喜んでいるから”の笑顔ではないので、その表情と心境はマッチしないが、外見上は嬉しそうなわたしでしかないため、他人から見ると「機嫌がよさそう」となるのだろう。

しかしながら、実際には吐き気がするほど痛い思いを抱えていたわけで、それなのに「いいことあったの?」と純粋に聞かれると、それはそれで辛いものがあった。とはいえ、「なんで不機嫌なの?」と言われるよりはマシである。他人に対して自分の不機嫌を押し付けるなど愚の骨頂。どうせ泣くなら、自分ひとりで十分だからだ。

 

そんな折に、なんとなくYouTubeを視聴していたところ、まさかの暗い気持ちが吹っ飛ぶ・・とまではいかないが、電車の中で思わず口元が緩んでしまうほど、久々に明るい気持ちにさせてくれる動画を発見した。

チャンネルの主は「アレン様」と呼ばれており、かつて美容整形に1億円以上を費やしたことで有名となった。見た目はいわゆる女装した男性キャラなので、同様の風貌で痛快な発言が支持されるタレントも多いわけだが、その多くは「他人や世間に対して何かを諭す」ような物言いの傾向にある中、アレン様はどちらかというと自分自身をネタにする発言や、彼のファン=クリマンと称する人々への指令(?)がほとんど。

 

さらに、「もう絶対にそうなるだろうな・・」というところで必ずそうなるオチが、なんとも人間味があって笑えるのだ。分かっているのにやっぱり・・という、お決まりのパターンであるにもかかわらず、ワードチョイスや叫び、表情、態度など発するすべてに勢いがある。

そして、ヒトとして社会を生きているというより、動物としてこの世を謳歌している感が、見ている者の本能を刺激することで幸せを感じさせるのだろう。本人も「常に幸せ」と断言しており、たしかに彼を見ていると、こちらも当たり前に”幸せであること”を実感させられる部分がある。

その証拠に、動画のコメント欄には「会社へ行くのが死ぬほど嫌だったけど、アレン様を見てたら元気が出てきた」「長年付き合った彼氏にフラれたばかりだけど、アレン様見たら元気になった」「本当に病んでたんだけど、勝手に笑顔になってた」などなど、視聴者自身が「幸せになれた」という報告であふれているのだ。

 

しかも、シンガポールが故郷と宣言しているわりには、随所で高知弁が出たりしょっちゅう高知へ帰省していたり、地元(高知)の弁当店のチキン南蛮が好きだったりと、庶民的な部分が視聴者の目線と合致するのだろう。

かくいうわたしは彼の信者というかファンではないが、それでもモヤモヤしていた気持ちが一瞬でも晴れたのは事実だし、何よりも笑える場面(正確には、電車内で笑いをこらえた場面)が何度もあったことに救われた。

なんせ、日常生活を送っていて”突発的な笑い”というものに遭遇する機会は少ない。しかも、練り上げられた笑いではなく、自然に産み落とされた面白さ——そのほとんどは失敗や不運など、本来笑えるべき類のものではないのだが——は、最強のネタとなる。そんなネタをしっかりと拾い上げて、「笑い」という名の幸せに消化(昇華)させていくチカラが、アレン様にはあるのだ。

 

 

結局、わたしが抱えているネガティブな思いや悩みも、いずれは思い出となり笑い話に昇華される日が来る。ゆえに、それまでの期間をいかに短縮できるかが、「生き上手」かどうかの違いなのだろう。

人間には社会性がある分、他人との関わりを断つことはできない。だが、動物として考えると、まずは自分ありきで決断しなければならないのは当然のこと。いかんせん一度きりの人生、他人に左右されるような残念なものにしたくはないわけで——。

 

どうせなら、「自分の選択が失敗に終わって、それを笑えるような人生でありたい」と、改めて思うのであった。

 

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