客室乗務員という仕事が、予想以上に激務だった事件

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令和7年4月22日、東京地裁は「休憩時間」に関する以下の判決を言い渡した(JCAより一部抜粋)。

被告(ジェットスター・ジャパン株式会社)は、原告(ジェットスター・ジャパン株式会社の客室乗務員)ら(別紙「原告目録」の「原告番号」欄記載5、12及び33の各原告を除く。)に対し、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を付与しない勤務(ただし、労働基準法施行規則32条2項所定の時間の合計が上記休憩時間に相当する場合を除く。)を命じてはならない。

この「休憩時間に関する判決」の要旨について、倉重公太朗弁護士は次のように解説している(社労士TOKYO 2025年12月号/2025年の重要判例から学ぶ人事・労務管理の留意点より引用)。

休憩時間の特例適用について:裁判所は、客室乗務員の業務は性質上、一斉に休憩を与えることが困難であり、労基則32条2項の特例が適用されうるとしたものの、特例が適用されるためには、休憩の代替となる「その他の時間」(便間時間や機内でのクルーレスト)が、労働から解放され、心身の緊張度が低い状態でなければならないとした。

便間時間とクルーレストの評価:地上での便間時間は、清掃や次便準備などの業務時間を除くと、法定の休憩時間には足りず、機内でのクルーレストは、機長の指揮監督下にあり、乗客対応や緊急事態への備えが必要であることから、労働から解放され、心身の緊張度が低いとはいえず、「その他の時間」には該当しないと判断した。その結果、Y社の勤務命令は労働基準法34条1項違反であるとし、Xら一人あたり11万円の損害賠償及び違法な勤務命令は労働者の人格権を侵害し、将来も継続する蓋然性が高いとして、将来の違法な勤務命令の差止め請求も求めた。

 

労基法34条では、「労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」(1項)、「休憩時間は、一斉に与えなければならない」(2項)、「休憩時間を自由に利用させなければならない。」(3項)と定めている。

だが、さすがにこれでは営業が滞ったり安全に支障をきたしたりする業務もあるので、そういった場合は休憩を与えなかったり一斉に付与しなかったりすることができる(労規則32条労基法別表第一)。

 

なお、休憩に関する規定が適用されない業種について、「郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの」等に対して、休憩時間を与えないことができる・・としている(労基則32条)。

さらに同条2項では、「使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。」としており、休憩時間を与えられない場合でも代替措置の確保は必要とされている。

 

というわけで、飛行機を操縦する機長や乗客の安全を守る客室乗務員が、フライトの途中で一斉に休憩を取ろうものならとんでもないことになる。そのため、交代で操縦したりギャレーでクルーレストをとったりしながら、心身の緊張から解放される時間を確保しているのである(とはいえ、これが今回否定されたわけだが・・)。

しかしながら、本件の内容で意外だったのは”一日に複数区間の乗務を担当していた客室乗務員が、次の便の搭乗が始まるまでの短い時間で客室清掃を行わなければならず、会社が想定する「乗り継ぎ待ちでの休憩時間」がほとんど得られていなかった”という部分だった。

 

機内清掃といえば、乗客が飛行機から降りると同時に清掃担当スタッフが乗り込んできて、あっという間に掃除が始まるイメージなのだが、「ジェットスターは客室乗務員がそこも担っていたのか?!」という驚きは隠せない。

空の上という緊張状態での肉体労働の後に、ようやく地上へ降りたと思ったら息つく暇もなく清掃業務を行い、またすぐに空の上へと移動する——これは確かに、過酷な労働環境といえるだろう。

 

 

会社側にとったら、人手不足に物価高騰というダブルパンチに加えて、消費者や客側からの「値段を下げろ!」「サービスが悪い!」という無理難題にも耳を貸さなければず、その歪というかしわ寄せが労働者に向かってしまった——そんな悪循環が生んだ残念なトラブルが今回の事件である。

なお、ジェットスター・ジャパン株式会社は控訴しており、この先の動向に注目したい。

 

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