そもそも「コンサルタント」という無責任な職業に不信感を抱くわたしだが、このような職種の採用において、過去の経歴や実績が重要であることは当然であり理解できる。
さらに、実績のみならず勤務先とトラブルを起こしていたり短期間での転職が続いていたりすれば、当人の性格や人間性に何らかの疑念を抱くのも不思議なことではない。
そんなわけで、コンサルティングファーム大手のアクセンチュア株式会社から内定をもらった従業員が、会社によるバックグラウンドチェックにて経歴の偽装申告が発覚したことで、内定を取り消された事案(アクセンチュア事件/東京地判・令和6年7月18日、東京高判・令和6年12月17日)について見てみよう。
(以下、労働新聞社/アクセンチュア事件(東京地判令6・7・18) 勤務歴正しく申告せず中途採用者を内定取消し 経歴詐称理由の解約は有効)より引用)
事案の概要
本件は、Yから採用内定を受けていたXが、その後の経歴調査により虚偽の経歴の申告が判明したなどとして同内定を取り消されたことにつき、内定取消しが無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める事案である。
Xは、令和4年初め頃、Yの中途採用の求人にエントリーし、応募フォームに従って、履歴書および職務経歴書を提出した。履歴書の「職務経歴」欄には、以下のような記載があった。「平成23年4月 個人事業主 開業」
また、職務経歴書には、勤務先として以下のような記載があった。「2020年(編注:令和2年)6月~2021年(令和3年)6月 勤務先 D、2021年6月~2022年(令和4年)3月 勤務先E/F」
Yは、採用内定後、調査会社に依頼して、Xについてのバックグラウンドチェックを実施した。バックグラウンドチェックにより、Xが令和3年6月から同年11月までG社に雇用されていたこと、および、Xが令和4年3月の1カ月間H社に雇用されていたことが確認された。
Yは、令和4年8月30日、Xに対し、採用内定を取り消す旨を通知し、31日にオファー撤回通知書を送付した。
本件の主な争点は、本件内定取消しの有効性である。本判決は、Xの請求を棄却した。なお、控訴審(東京高判令6・12・17)も内定取消しを有効とした。
原告である元従業員が、なぜ過去に雇用されていた二社について隠していたのかというと、一つ目の会社は「有期雇用契約を雇止めとされたこと」で同社との間で紛争になり、二つ目の会社は「業務命令に従わず、個別の注意等による反省も見られないなど、通常の業務遂行が困難との理由で雇用開始から約1か月後の試用期間中に普通解雇された」という”きな臭い事情”があったからだ。
要するに、労務紛争を抱えていることが知られれば、自身の採用に不利益に働く・・との考えから、二社に関する職歴を履歴書に記載しなかったのだろう。ところが、バックグラウンドチェックによりこの事実が会社にバレてしまい内定を取り消され、それは困る!!となった元従業員は「紛争中であったため記載を控えただけで、意図的な詐称ではない」などとと主張し、内定取消しは無効である旨を争ったわけだ。
無論、事実と異なる職歴を申告したのだから、意図的な虚偽申告であり背信性が高いと判断されるのは当然。よって、本件の内定取消しは客観的に合理的と認められ社会通念上相当とのことから、控訴するも請求はすべて棄却された。
・・この事例を読んで思い出したことがある。かつて、顧問先に見事な職歴の従業員が在籍していた。履歴書に書かれた勤務先は一流企業ばかりで、気になる点といえば「なぜ、このような小さな個人店へ転職したのだろうか?」ということくらい。
とはいえ、じつは履歴書にも違和感はあった。たしかに錚々(そうそう)たる企業名が連なってはいたが、それにしては職種の関連性もなければ業種の傾向もなく、唯一の共通点といえば「どれも一流企業であること」くらいだった。
結局、2カ月で顧問先を退職したその従業員は、手慣れた対応で未払残業代の請求をしてきたのだが、そのやり方に不信感を抱いたわたしは、彼の職歴が嘘である——というか、働いていた「場所」は紛れもなくそこだったが、その企業へ採用されたのではなく「清掃業務スタッフ」として派遣されていたことを突き止めた。
(あぁ、だから社内の様子や配置について詳しかったのか・・)
これ見よがしに一流企業の内情を口にする様子から、誰もが彼の職歴を疑わなかった。「××テレビの4階には△△がある、〇〇の社員食堂のおススメは□□だった」など、内部を知る者にしか分からないであろう情報をペラペラと喋っていたので、同僚らは皆騙されたのである。
だが、いかんせん相手が悪かった。偶然にも、わたしの友人が勤めるテレビ局の名前があったので探りを入れてみたところ・・そう、清掃スタッフだったことがバレてしまったのだ。
というか、そのような嘘を重ねてまで、あるいは見栄を張ってまで自身の過去を偽りたかったのだろうか。先のアクセンチュア事件もそうだが、誰しもが綺麗なキャリアで出来ているわけではないし、都合の悪い事実や恥ずかしい失態も含めて人生なのだから、堂々と弁解すればいいじゃないか——と思うのは、個人事業主だからか。
他人に認められるまたは気に入られるためには、汚点を隠して自慢できることだけを誇示するのが手っ取り早い。よって、誤解も含めてネガティブな話題はなるべくならば避けたい・・と思う気持ちは理解できるが、だからといって事実を捻じ曲げてまで何を誇張したいのか、理解に苦しむ。
ちなみに、わたしが採用面接をする際は「人生で最大の汚点は何だった?」とか「墓場まで持っていくつもりの秘密はある?」とか、業務と関係ないことばかりを聞いている。
そんな内容だからこそ、いろんな意味でそのヒト自身が見え隠れするのが面白いし、そちらの方が「本音を知れる」という意外性もあるので、面接する側も目が死ぬことはない。
要するに、わたし個人的には失敗やミスが大好物なのだ。そんな変わり者も世の中には存在するので、過去の汚点を恥じることなく、むしろ盾にして採用に挑んでもらいたい・・と思うのである。




















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