久々に、障害年金の書類を作成。

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久しぶりに障害年金の請求を受任したわたしは、かつて港区役所で年金相談員として働いていた時のことを思い出していた。

 

年金相談で区役所を訪れるのは「国民年金被保険者」のみ。稀に、厚生年金被保険者が立ち寄ることもあるが、原則として年金事務所での受付となるため、区役所で対応することはない。

とはいえ、区役所と年金事務所・・言い換えれば、国民年金と厚生年金とで手続き上どのような違いがあるのかというと、請求書の色が違うくらいで大きな差はない。さらに、区役所で受け付ける年金は国民年金被保険者のみなので、老齢年金(65歳からもらえる年金)に関しては「過去に一度も厚生年金へ加入した期間がない」という条件の者だけが、区役所で請求手続きを行うことができるのだ。

——要するに、今となってはなかなかレアなケースなのである。

 

昭和の時代ならば「自営業者は個人事業主」というのが大前提だったが、現在においては自営業といえども法人化するケースが増えており、法人代表として報酬を得る場合は厚生年金加入となる。

そして、わずか一か月でも厚生年金期間がある者は、区役所で対応することが出来ないため、最初から年金事務所を案内するほうが親切・・というわけだ。

 

——以上の話は「老齢年金」の場合だが、わたしが区役所にて最も多く対応をしたのは、じつは老齢年金ではなく障害年金だった。

なぜ障害年金の相談者が多いのかというと、理由の一つに「先天性の疾病や二十歳前(厚生年金の期間を除く)に初診日のある傷病については、すべて国民年金として審査される」という仕組みが挙げられる。

そのため、知的障害や手足の欠損、視覚・聴覚障害など先天的な障害を持つ者が、二十歳になる前に書類や請求方法について相談に来るケースが多く、なかでも知的障害の件数が頭一つ抜けていたのは、幼少期からの生活環境によるものだろう。

 

未就学児で「言葉が遅い」「目が合わない」「おねしょが続く」など、早い段階で気が付くこともあれば、小学校や中学校の授業についていけなかったり、周りとのコミュニケーションがとれなかったりと、学校側からの打診で精神科や心療内科を受診した結果、知的能力に障害があると診断されることも。

そして、定期的にフォローを続ける中で「二十歳になったら障害年金の請求を検討されてはどうか」という情報提供を受け、多くの親は障害年金の存在を認識しているのだ。

 

それに比べて、精神疾患の子どもは障害年金の存在を知らないことが多い。いわゆる「引きこもり」「感情が不安定」「身体的損傷を伴う行動」など、ややもすれば誰もが経験するであろう状態について、まさか病気だとは思っていない・・もしくは「病気や障害だと思いたくない」親が多いからだ。

 

ちなみに、よくある勘違いとして「この病気(病名)ならば、障害年金がもらえると聞いた」と訴える相談者がいるが、これは誤りである。

障害年金は、病気や怪我により発生した症状が固定した段階で、日常生活や社会生活を送るうえでどの程度の不便・不自由があるかについて精査し、その結果として障害等級に該当する場合に支給されるもの。

よって、「病名が〇〇だからもらえる」というものではない。逆に言うと、病名からするとそれほど重症とは思えない傷病だったとしても、生活状況から鑑みて「障害年金を受給するのが妥当」と判断されるケースもある——そう、あの子は月に1日しか元気になれない「気分障害(うつ病)」だった。

 

信じがたい話だが、その子の母親はこう説明してくれた。

「一か月のうち一度か二度しか、娘が部屋の外へ出ることはありません。なので、その日にクリニックの予約を入れたり区役所を訪れたりしないと、来月まで待たなければならないんです」

本来ならば今日、当事者である娘を連れて区役所へやって来るはずだった母親が一人で現れた。そして、その理由というのがこれだった。

 

先週、わたしはとても元気な「娘」と会っている。会話に多少の違和感を覚えるも、概ね普通の女性であり特段おかしなところは見当たらない。むしろ、これのどこに障害があるというんだ——と突っ込みたくなるほど、はつらつとしたいい子だった。

だがあれは、彼女の調子がいい日だったのだ。体調が優れているから外出できたわけで、だからこそ元気に見えたのだ。ところが、そんな夢のような一日が過ぎれば、彼女はまた元通り・・部屋に閉じこもって外部との接触を断ち、一日中ベッドで突っ伏した生活を送るのだ。

 

このような状況ゆえに、診断書を作成したくてもクリニックへ行くことができず、いつまで経っても書類が整わない。さらに、前もって予約を入れることもできないため、当日の混雑状況によっては来月まで持ち越し——。そんな空虚な数カ月を、母親とわたしは過ごしてきたのである。

 

だからこそ、「病歴状況や日常生活について申し立てる書類」というのは、丁寧かつつまびらかに作成しなければならない。いかんせん審査するのは、今までもこれからも会うことのない見ず知らずの他人であり、その者に対していかに正確に詳細を伝えられるのかが、障害年金の審査において大切なポイントとなるからだ。

傷病名が重い/軽いなど、ハッキリ言ってどうでもいい話。そんなことより、「当人がどれほど日常生活で不便を感じているのか」のほうが、よっぽど重要な要素となるわけで。

 

 

そんな過去の出来事を思い出しながら、依頼人のためにも丁寧かつ正確な詳細をしたためようと、改めて背筋を伸ばすのであった。

 

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