クワトロメガネ

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久しぶりに実家を訪れたのだが、コンタクトを外したときにかけるメガネを忘れる、という致命的なミスを犯した。

コンタクトレンズを長時間装着していると、角膜が乾燥して傷つきやすくなる。よって、自宅にいるときは極力メガネで過ごすよう心掛けているわけだが、帰省にあたり室内でぐうたら過ごすにもかかわらず、メガネを忘れるという最悪の事態となったのだ。

 

レンズの度数がマイナス二桁という強度近視の私にとって、コンタクトがなければ外出もままならない。だが自宅においても、メガネがなければスマホも見えなければ、パソコンで仕事などもってのほか。冷蔵庫を開けても中身は分からないし、レンジを使うにもボタンが見えない。そのため、ほとんどの動作を「日頃の慣れ」と「勘」でクリアするしかない、という状況に陥るのだ。

 

帰省初日は、夜遅くまで粘ってコンタクトを外さなかったが、翌日はさすがに諦めた。近場にJ!NSメガネがあるので、とりあえず作りに行こうと思ったが、よくよく考えると私の度数で当日受け取れることなどあり得ない。よって、帰省中に新たなメガネを手にすることは不可能だと気づいた。

(もはやひたすら乙と戯れて、昼寝して過ごすしかない)

そう覚悟を決めようとしたその時、母親がこう提案してきた。

「お母さんのメガネ、かけてみる?」

彼女はメガネを10本以上持っている。紫外線カットやらブルーライトカットやら、丸いのやら四角いのやら、なにが何だか分からないほどたくさん持っているのだ。そしてそのほとんどが使われることなく、引き出しの奥で眠っているため、とりあえずラインナップを見せてもらうことにした。

「ていうか、どれも度数が弱すぎるんだけど」

そう。そもそも彼女の度数では、私の視力の足しにもならない。私の度数がマイナス10とすると、彼女のメガネはマイナス2。ないよりあったほうがマシかな?という程度で、ほぼなんの変化も感じられない、微弱な度数なのだ。

 

一瞬、ナイスな提案だと思ったが、あまり意味を成さないため諦めかけていたところ、数あるメガネの中でもめちゃくちゃ薄っぺらいメガネを発見した。

(これなら、重ねてかけられそうだ)

さらに似たような薄いメガネと合わせて、ダブルメガネにトライしてみた。

(むむ!一つの時よりも見えるぞ)

ということは、さらに重ねることでより見えるのではなかろうか。いや、間違いなくそうだろう。マイナス2をダブル装着することでマイナス4となるのだから、五つ重ねたらマイナス10、私の度数になるではないか!

 

こうして私は、次々と薄いメガネを組み合わせて度数を追加した。しかし母のメガネはレンズ面積が狭いため、四つ重ねた時点で限界。というわけで、やむを得ず「クワトロメガネ」で妥協することにした。

そして次なる課題は「メガネをどうやって固定するか」ということだ。テーピングでグルグル巻きにすればいいと思ったが、

「メガネがベタベタになったら困る」

と所有者から却下されたため、何かいい方法はないかと頭をひねる。目の前にはラップに包まれたおにぎりが並べられている。ラップ・・・。

「そうだ!サランラップで巻けばいい」

こうして私は、4本のメガネのサイド部分(つる)を束ねると、半分に折りたたんだサランラップでグルグルと巻いた。

なんとこのアイディア、メガネ同士を強固に固定できるだけでなく、こめかみ部分にサランラップが当たるため、耳当てによる耳の裏への負担を減らせることが発覚。まさに一石二鳥の発明となった。

 

こうして裸眼よりもずいぶんと見えるようになった私は、クワトロメガネで黙々と仕事に没頭した。

ただ一つ、困ることがあった。それは、スマホもパソコンも私を認識しなくなったことだ。Face IDで認証されないため、いちいちパスコードを入力してロック解除しなければならない。

ていうか、私はいったいどんな顔になったというのだ?

 

とはいえ、この手間を除けばおおむね良好なアイディアであった。

 

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