——ついにモテ期がやってきた。
そう確信する出来事に遭遇したのである。
*
わたしが所属するブラジリアン柔術のアカデミーでは、練習後に毎回モップ掛けをする決まりになっている。時間帯によっては雑巾がけまで行うが、夜はモップのみで終了となるため、挨拶を終えたら全員が壁際に並び、交代でモップを受け取りマットの掃除をするわけだ。
そして、いつものように隅でモップがやって来るのを待っていたところ、あと少しで受け取れる・・という寸前のところで、わたしの目の前にいきなり誰かがカットインしてきた。そう、男Aである。
やや離れたところで待機していた男Aは、わたしが手を伸ばしてモップを受け取ろうとした瞬間に、大きく一歩を踏み出すと身を挺してそれを阻止したのだ。そして、変に媚びたり言い訳をしたりすることもなく、力強くモップを握りしめると颯爽と逆サイドへ向かって歩き出したのだ。
まるで「男は背中で語る」を体現しているかのように。
あまりの素早さと自然な身のこなしに圧倒されていたわたしは、隣でボーっと突っ立っていた男Bに向かって、「見た?わたしのモップを奪っていったよ」と、感動を共有するべく話しかけたところ、男Bは
「いや、自分も(URABEに)いいとこ見せようと待ち構えていたんだけど、先に取られちゃいました」
と、まさかの告白をしてきたではないか。この男も、わたしからモップを奪うことで気を引こうとしていた様子——まさか、こんなところで男たちがわたしを奪い合うなんて。
正確には、わたしが受け取るべき「モップ」を奪い合ったわけだが、その目的はカッコいいところを見せて好意を抱いてもらうための求愛行動なわけで、わたしのために争った・・といっても過言ではない。
「だったら、さっさと手を出してモップを奪えよ!」
ときつくお灸をすえたところで、ふと、もう一人の男の存在を思い出した——そう、男Mである。アイツこそ、真っ先にわたしのモップを奪いに来るべき立場であるにもかかわらず、いったいどこをほっつき歩いてるんだ。
キョロキョロと辺りを見渡すと、かなり離れたところに男Mの姿を発見した。
(そういえば、男Bの口ぶりでは男Mと奴とでわたしを奪い合っているような感じだった。にもかかわらず、なんでアイツはわたしの近くにいないんだ・・)
本来ならば男3人がわたしを奪い合う構図となるはずが、男Mが持ち場を離れたせいで不完全な絵となってしまったことに腹を立てたわたしは、遠くにいる男Mを指さしながら「なんでわたしのモップを奪いにこないんだ?」と、厳しく問いただした。
すると男Mは、呆れたような困ったような表情を浮かべながらこちらへ向かってくると、
「僕は、一番最初にモップを奪った男ですよ。(URABEの手に渡すことなく)僕がモップをかけたんですから」
と、まさかの大告白をぶちかましたではないか。
——あぁ、なんということだ。今まで、オトコからオトコ扱いされる柔術ライフを送ってきたわたしに、こんな形で春が訪れるとは思ってもみなかった。三人の男によってわたしを巡る争いが勃発し、しかも口だけでなく体を張って想いを表現してくれるとは・・おっと、男Bは口だけだったが。
とはいえ、三人とも既婚者と見受けられるが、そのあたりはどうなんだろう。無論、わたし自身はそういった縛りに囚われることなく、自由に恋愛を謳歌するタイプなので問題ないが、割とまっとうな人生を歩んでいそうなお三方も、そのリスクを受け入れた上でそれでもなおこのわたしを求める・・という覚悟なのだろうか。
あぁ、モテるってこういうことなのね。す・て・き——。
*
こうして、今日もモップ掛けをせずに済んだわたしなのである。
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