正統TKG文書(せいとうTKGもんじょ)

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卵かけごはん、略して「TKG」の専門家として、これまでひた隠しにしてきた秘技があるの。それを本日、満を持して紹介しようと思う。

 

なぜ突然このような気持ちになったのかというと、優良な情報を独り占めしたところで、わたしにとって何のメリットもないからだ。そりゃ、この仮想通貨が跳ねるとかこの馬券が当たるとか、明らかにわたし一人でいい思いをしたい場合は別である。儲かる情報を他人に漏らすほど、わたしはお人好しでも善人でもないからだ。

だが、白米に生卵をかけて混ぜるだけのTKGに関しては、何百人に伝授しようが、わたしの食べる分が減るわけではないのでまったく困らない。それよりも、ただ単に生卵に醤油をかけてかき混ぜて、それを白米に垂らして食べるなどという、TKGのポテンシャルを台無しにするような行為を看過することができないのだ。

 

というわけで、これを読んだらすぐさま実践してもらいたい、正統・TKGの食べ方を披露しよう。

 

 

「なんで卵白をご飯にかけるの?!」

驚きの表情で友人が叫ぶ。たしかに、正しいTKGの食べ方を知らない素人にとったら、なぜわたしが唐突に箸を使って黄身と白身を分けたのか、不思議に思うのだろう。

 

さらにこの技が使えるのは、新鮮な卵であることが条件となる。飲食店でTKGを注文した際に、すでに割られた状態で生卵が出てきた場合、3センチほどの間を空けて箸を立て、その間を通すように生卵を白米の上に流し込むのだ。すると黄身は箸に引っ掛かり、白身だけがドロリと抜け落ち、見事に分離ができるのである。

もしも殻付きで生卵が出てきた場合は、真っ二つに割った殻を器のようにして、ギザギザのエッジ部分で卵白と黄身を削ぎ取るようにして分割する。こうすると、右に黄身左に白身という見事なシェアが完成するのだ。

 

いずれかの方法で卵白を分けたら、それを白米に流し込み入念にかき混ぜる。

よく、「卵白のドロッとした感じが苦手」という声を聞くが、そういう人にこそ是非とも体感してもらいたいのがこの方法である。そしてこれこそがTKGにおける秘技であり、白米の圧倒的なポテンシャルを引き出す術でもあるのだ。

 

いうまでもなく、炊きたてのブランド米ならばそのまま食べても美味いし、TKGにしても当然ながら美味い。だが、炊いてから時間が経ってしまった場合や、水分が少なめでパサついたご飯だと、それ以上どうやっても質の向上は見込めないわけで、残念な気持ちを抱えながら噛みしめることになる。

ところが、生卵の卵白とイマイチの白米を混ぜ合わせると、あら不思議。米粒の立ったフワフワの極上ご飯に変身するのだ!

むしろ白米だけで食べても十分美味い。メレンゲを纏った白米は、フワフワで滑らかな食感に包まれており、下手すると炊きたてのブランド米の上をいくクオリティーである。

 

何が言いたいかというと、「物事はいつだって基礎や下地が肝心である」ということだ。

どんなに立派な資材で家を建てようが、基礎工事に手抜きがあれば強度も安全性もすべてが台無しになる。いくら高級化粧品を使おうが、ガサガサの肌にファンデーションを塗りたくったところで、滑らかな陶器肌になどなるはずもない。

これらと同様に、TKGにおけるもっとも重要な工程は、白米と卵白を混ぜ合わせることで、フワフワのメレンゲご飯を作り出すことにあるのだ

ここを怠っては、どれほど高級な米であろうが希少価値のある幻の卵だろうが、残念ながらTKGの傑作にはなり得ないのである。

 

こうしてメレンゲご飯が完成したら、そこへ黄身を載せればTKGの完成だ。

醤油を垂らすもよし、そのまま卵黄と白米の味を楽しむもよし、場合によっては刻みネギをまぶしたりかつお節を振りかけたり、塩昆布を添えてみたりと様々なアレンジが可能。

 

・・ご覧の通り、これこそがTKGの正統な食べ方であり、ポテンシャルを最大限に引き出すテクニックなのである。

 

 

「だまされたと思って、一度試してみてよ!」

嬉々としながらわたしは友人に力説した。彼女にも、この最高の食べ方を満喫してもらいたいからだ。そして一緒に喜びを分かち合おうではないか——。

 

ふと彼女の茶碗を覗くと、黄身と白身を普通にかき混ぜたものが白米の上に載っていた。そして、そんな間違ったTKGを美味そうに頬張る、笑顔の友人が居た。

 

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