こちら生駒市萩の台第3公園前ラスク所

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べつに、友人がSNSで助けを求めていたから協力したわけではない。純粋にパンやクッキー、ラスクといった食べ物が好きだから、しかも手作りの美味そうなラスクだったから買っただけだ。

なんせ、美味いものしか食わないわたしだから。

 

 

事の発端は3日前、関西に住む友人がSNSでこんなリリースをしたことによる。

「お隣のパン屋さんを一緒に助けてください!」

治療院を営む友人は、隣接するパン屋で大量に売れ残ってしまったラスクを憂い、全国の友人知人に向けてこう発信したのだ。そもそもなぜこのような事態となったのかというと、ご存じ「オミクロン株」の影響。予定していたイベントがバタバタと中止になり、そこで販売するはずの大量のラスクが在庫となってしまったのだ。

 

個人経営のパン屋のお手製ラスク、それが美味くないはずがない――。そう悟ったわたしは、さっそく友人へメッセージを送った。都内在住のわたしは現地へ買いに行くことができない。そこで、友人に買わせて送ってもらう作戦に出た。

「あんことチョコミント以外、全部食べたい」

画像を見る限り、20種類近くのラスクが陳列されている。しかも本来の値段の半額で売るとのこと。値段の安さというより、パッケージやラスクの形状から伝わる手作り感と、明らかに美味いであろうオーラを感じたわたしは、苦手なあんことチョコミントを除く、すべてのラスクを胃袋に納めることを誓った。

 

そして今日、およそ25袋のラスクが届いたわけだ。

 

 

段ボール箱を開けると、ギッシリ詰まったラスクたちが現れた。やはり箱詰めというのは、どこか子供心をくすぐる一面を持っている。これがレジ袋に一杯のラスクでは、嬉しさはあってもワクワクは感じられないわけで、箱を開けた瞬間の「あの感動」というのは、段ボール箱ならではといえる。

とりあえずは到着の報告も兼ねて、インスタに大量のラスクを投稿する。そして色合いのきれいな「イチゴのラスク」を開封すると、貪るように食い始めた。

 

大きさや形が何種類かあるが、イチゴラスクはサイコロサイズでつまみやすい。すべての面に満遍なくイチゴ味がコーティングされており、サクサクと軽い歯ごたえのキューブは底なしに食欲をそそる。

色々な味を試してみたいので、ある程度のところで手を止めようと思っていたが止まらない。あと2粒でやめよう、と強い意志をもってイチゴラスクとの別れを決めるも、気づくと無意識に手が袋の中へ伸びている。

(あぁ、仕方ない。あと1粒でやめよう)

再び覚悟を決めると、ラスト一粒を口へと放り込んだ。すると運悪く、袋の中のラスクが一つだけ飛び出ているのを発見してしまった。

(せめてアイツだけ処理しておこう)

これは仕方のないことだ。わたしが悪いのではなく、一つだけ飛び出ているラスクが悪いのだから。どうせ保管するなら、表面はなだらかな状態にしておきたいもの。あの飛び出たヤツだけ処理すれば、わたしの気持ちも落ち着くだろう。

 

とそこへ、インスタを見たと思われる友人からメッセージが届いた。

「たくさん食べちゃダメだよ、減量あるんだから」

どこから監視しているんだ?!

「揚げてあるし、シュガーかかってるから、たくさん食べちゃダメだよ」

なんだよ「シュガー」って!「砂糖」って言えよ、日本人のくせに!と、心の奥でツッコむ。しかし言われてみると、たしかに揚げてあるしシュガーもかかっている。そこでわたしはこう返した。

「めちゃくちゃ軽いから大丈夫!」

そう、ラスクは軽い。ポップコーンばりに軽い。こんなもので体重が増えたら「どんなマジックですか?」と尋ねたいくらいに、重さは感じられない。そんな強気のわたしに向かって、友人は痛恨の一撃を放った。

「軽くても、カロリー莫大だから」

なに?カロリーだと!そんなものについて、考えたこともなかった・・・。

 

唯一、カロリーに関する思い出があるとすれば「シュトーレン」だ。クリスマスシーズンに友人からもらたシュトーレンという食べ物は、ズッシリとしたパンケーキだった。とてもいい匂いがするので、友人と別れた直後にシュトーレンにかぶりついた。

(んー、芳醇な香りと食べごたえ十分な重さ、最っ高!)

わたしはシュトーレンの魔力に憑りつかれ、一気に食い尽くしてしまった。どことなく胃袋が重い気はするが、満足感が上回っているので問題ない。

 

――そして後日、あのシュトーレンが一本4,000キロカロリーあることを知ったのであった。

 

「ケーキもそうだけど、お菓子はグラムは軽いけどカロリー高いから」

追い打ちをかけられたわたしは、力なくイチゴラスクをつまんではポリポリと噛んだ。

(・・・罠だ。小さくカットしてあるから食べやすい。そして美味いんだから、止まらないに決まってる。これは罠なんだ)

途方に暮れながらも、軽くてちっちゃいラスクを黙々と食べ続けた。そして食べ終わる頃に、唯一の「反撃」となる言葉を、友人へ投げ返してやった。

 

「今日、チートデイだから」

すると間髪入れずに返信がきた。

「毎日チートデイじゃん」

 

・・・・・。

 

美味いんだからしょうがない。食べやすいんだからしょうがない。罠にはまったんだから、もはや開き直って進むしかない。

これで減量が失敗に終わっても、悔いはない――。

 

そしてわたしは、4袋目のラスクへと手を伸ばすのであった。

 

 

今回登場したラスクは、奈良県生駒市にある「焼きたてパンの店 夢飛行」のラスク。3千円以上の注文ならば送料無料とのこと、ぜひお試しあれ。

 

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