わたしは、定期的に膨らんだりしぼんだりするフィジカルを持っているため、行き過ぎると調整しなければならない。とはいえ、やり方は至極簡単。食べる量を減らせば体重も減るし、たくさん食べれば体重も増える。そんなスポンジのような体は、飲み食いした分だけで増えたり減ったりするわけで、燃費の悪さが玉に瑕。
(さすがにこの体重はいただけないな・・・)
ここ最近の暴飲暴食と運動不足に加えて、乙の病状や両親との確執など、心配事が絶えない日々を送るわたしは、みるみる増量していった。なにも好んでバラストになっているわけではないが、欲望の赴くままに身を委ねた結果、案の定、"欲望の権化"となってしまったのだ。
とはいえ、このままでいいはずがない。港区在住女子として、あまりにみっともないフォルムを晒していては名が廃る。よし、少し減量しよう——。
わたしにとって体重を減らすことは、実質的には簡単である。なんせ、食べる量を減らせばいいだけのことだからだ。しかし、精神的にかなりの苦痛を伴うわけで、一概に「簡単」とはいえない。
ちなみに"食欲"は、体内に食物を入れることで満たされる。つまり、物理的に叶えることのできる単純な欲望なのである。飲み食いした分だけ体重が増えて、腹は膨らみ心も満たされる——。極論だが、手で触れることのできる欲望は、食欲の他にはないだろう。
だからこそ、もっとも身近でもっとも現実的な欲望である食欲を、わたしは大切にしているのだ。そんな最上位の欲望を抑えなければならないというのは、やはり辛いものである。
(そ、そんな脆弱な考えでどうする!!)
そう気持ちを奮い立たせると、わたしは一リットルの緑茶のパックを手に取った。まずは飲み物から変えていこう——。などとカッコつけたことを考えながらも、ついつい「ピルクル プレミアムクリーミー白桃」と「スクイーズスクイーズグレープ」まで抱えてしまったわけだが、まぁいいだろう。
そしてレジへと向かおうとすると、飲み会帰りの男女の集団が通路を塞いでいた。アルコールが入ると気がデカくなるだけでなく、声までデカくなるから厄介だ。おまけに足元がふらついているし、明らかに思考能力が低下していることも腹が立つ。
このように他人に迷惑をかけてまで、なぜ酒を飲もうとするのか理解に苦しむ。とりあえず、くだらないトラブルに巻き込まれないためにも、わたしはほろ酔い気分のパリピ集団と逆の方向へと踵を返した。
(遠回りにはなるが、あいつらをかき分けてレジへ向かうくらいなら、こっちのほうが随分マシだ)
わたしは颯爽と角を曲がると、今度こそレジへ向かって歩き出し・・・・・ま、抹茶のチョコじゃないかぁぁぁぁ!!!!!
なんとなんと、菓子売り場の角を曲がった瞬間、わたしの右側が抹茶色に染まっていたのだ。
今が抹茶の季節なのかは不明だが、それでも明らかに抹茶の商品がズラリと並んでいる。罠のように張り巡らされているピスタチオではなく、正真正銘の抹茶である。
(おおおー!アーモンド抹茶、うまそうぅぅぅ!!)
明治が誇るアーモンドチョコレートの抹茶バージョンである。箱も魅力的な緑だが、アーモンドを包み込むチョコレートの緑色が、なんとも妖艶な美しさを放っている。これは食べる前から美味確定だ。
その隣には「雅抹茶」の文字が光るアルフォートが鎮座している。
アルフォートとは、四角いチョコの裏に全粒粉ビスケットがくっ付いているブルボンの人気商品。そのチョコの部分が抹茶味という贅沢な菓子である。こちらも食べる前から美味確定であり、わたしのテンションは上がりまくりだ。
なお、ブルボンは抹茶に対してかなりの本気を示している。アルフォートのみならず、ルマンド、エリーゼ、ロアンヌ、ショコラブランチュールまでもが抹茶味で発売されているではないか。・・ブルボンの評価が一気に上がった瞬間である。
こうしてわたしは、美しい深緑色のパッケージを片っ端から取り上げると、いそいそとレジへ向かった。
(ダイエットは明日からにしよう——)
こんな毎日を繰り返していれば、そりゃ体重が減ることもないだろう。それでも抹茶の魅力には抗えないわけで、抹茶のためならば何も我慢しない所存である。
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