URABE餌付け三大神の一人、関西在住の後輩

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朝の10時頃、自宅のインターホンが鳴った。モニターを見ると、そこには宅配業者の兄ちゃんが——ついに来た、後輩から餌・・いや、食べ物が!

関西在住の後輩は、わたしを見事に餌付けし飼いならしている。むしろマニアといっても過言ではないほど、わたしの行動に目を光らせているのである。

少し前の話だが、ブラジリアン柔術のワールドマスターチャンピオンシップに参加した際、すべての試合中継がネットにて配信された。しかし、ラスベガスと日本ではかなりの時差があるため、わたしの試合は日本でいうところの深夜から早朝だった・・はずだが、後輩は翌日の寝不足を覚悟で、最初から最後までわたしの試合を観戦していた模様。

 

それだけならば、他にも暇つぶしに見てくれた友人らはいたが、後輩が凄いのは試合の合間の空白の時間ですら、耳を澄ませてわたしの一挙手一投足をチェックしていたことだ。

「試合の合間に、URABEの流暢な英語が聞こえてきましたよ」

決して流暢ではないが、外国人の圧倒的なフィジカルに翻弄されたわたしは、初戦ですでに手指が死んでいた。それでもトーナメントゆえに刻々と出番が迫ってくるため、少しでもグリップの回復を図るべく、スタッフやレフリーに「試合開始を遅らせてくれ」と執拗に懇願していたのだ。その結果「仕方ないわね、5分だけ延ばしてあげるわ」と、毎度毎度5分の猶予をもぎとってきたのである。

その様子を、わたしどころか誰も映っていない配信を見ながら、音声だけでわたしだと聞き分けたのだからマニアの域だろう。

 

そんなURABEマニアの後輩は、今回も試合が終わった翌日の午前指定で、わたし好みの食べ物を送ってきたのだ。さて、なにが届いたのかな——。

 

今回のごちそうは、兵庫県三田市にある「パティシエ・エス・コヤマ」のカステラとチーズケーキだった。菓子の種類としてはごく普通なラインナップだが、後輩がそんな安直なチョイスをするはずもない。それもそのはず、カステラはなんと「昔風バターカステラ、カスティーリャ」という名前の、デカい金塊のようなズッシリとした逸品だった。

わたしはバターが大好物である。バター風味とかバター入りとかではない、バター自体を齧るのが好きなのだ。加えて、パンケーキが好物であるのは言うまでもない。そんな二つの「大好き」が見事に合体したのが、このカスティーリャだった。

シェフが修行時代に教わったカステラをエスコヤマ流にアレンジしました。きめ細やかな黄金色の生地には、フランス産のアカシアハチミツ、播州地卵を使用し、しっとり軽い食感に。昔ながらのカステラ生地にバターを加えることで、カステラのような、バターケーキのような・・・そしてそのどちらでもない。どことなく懐かしくも、進化した新しい味わいに仕上がっています。

このように紹介されているだけあり、カリっと焼き上げられた表面を突き破ると、中からしっとりズッシリした濃厚なバターケーキ・・カステラが現れた。——うん、美味い!

 

この巨大・金の延べ棒を一気食いするのは当然だが、そのまえにもう一つのご馳走も味見をしておこう・・というわけで、「エスコヤマの田舎チーズ ショコラ」を開封してみた。おぉ、見事なクリームチーズケーキじゃあないか——。

(前略)センター部分のねっとりとした食感と、「焼き過ぎじゃないの?」と思うほど焼ききった表面、そして周りの生地の食感とのコントラストをお楽しみいただける田舎チーズ。あの特有の食感やクリーミーな味わいとハーモニーを奏でるのは、カカオハンター®の小方真弓氏の手によって生み出されたコロンビア・トゥマコ産カカオのビターチョコレート(カカオ分65%)。「ボンボンショコラだけでなく、チョコレート菓子全体のクオリティを上げてくれる存在になるようなクーベルチュールを創っていただけたら」というオファーに応えてくださり生み出されたのがこちらです。

というわけで、得も言われぬコクと甘み、そしてほのかな酸味すら感じる極上のマリアージュを実現したのが、この田舎チーズ ショコラである。ところが、昨日の激闘で口の中が血だらけになったため、このクリームチーズが沁みるという惨めなオチではあるが、それでも滑らかな舌ざわりと上質なカカオの風味が「一休み」を許さないため、気付けばホールごと食い尽くしていた。

(おっと、とりあえず後輩に報告しなければ・・)

まずは到着の報告とお礼を伝えるべく、食べかけのカスティーリャの画像を送りつけた。きっと喜びながら「どうでした?」って来るんだろう——。

 

しかしながら、待てど暮らせどメッセージが既読にならない。・・おかしいな、早朝までやり取りをしていたのに。

それから、カスティーリャも食べ尽くしたわたしは、まだ既読にならないメッセージを眺めながら悲しい気持ちになっていた。——なんで見てくれないんだろう、忙しいのかな。

 

そんなことを思いながらも、満腹になったわたしはスマホを握りしめたままソファに横たわり、夢の世界へと旅立った。

 

 

「無事に届いてよかったです。手術から生還しました」

貢ぎ物を食べてから3時間後、後輩から返信があった。そう、彼女は今日、膝の手術を受けていたのだ。全身麻酔にてオペを実施したわけで、もしも彼女が目覚めなかったとしたら、このケーキがダイイングメッセージならぬダイイングギフトになった可能性がある。

 

そう思うと、「もっとしっかり味わって食べればよかった」という、後悔に似た熱い想いが込み上げてきた。なんせ、後輩が命を賭して送り付けてきた食べ物を、わたしは「美味い美味い」と気楽に食べ尽くしてしまったのだ。なんたる失態・・・!!!

食べ物は生き物にとって必要不可欠な要素である。それをただ単に「美味い」という感情(?)のみで消化するなど愚の骨頂。ましてや、後輩が生きた証としてわたしに届けてくれた食べ物を、十分に噛みしめ嚥下しなければ彼女だって浮かばれない。それなのに、それなのにわたしときたら・・・。

 

そんなことを思いながらも、次の貢ぎ物を楽しみにするのであった。

 

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