今年一番のファインプレーを披露した私

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今日・・どころか今年一番のファインプレーを、ブラジリアン柔術の全日本選手権で披露したわたしは、なんとも誇らしい気分に浸っていた。無論、当事者である後輩にとっては喜ばしい事態ではないし、本来ならばあってはならないことなのだが、それでも急を要する場面でわたしのナイスアシストが光った点については評価したいのである。

——そう、遠方から試合にエントリーした後輩が、道衣チェックでNGをくらったのだが、その窮地を脱するための救世主となったのが、なにを隠そうこのわたしなのだ。

 

 

ここ最近、柔術の試合における道衣チェックは厳しさを増している。そのため、筋肉質でずんぐりむっくり体型のわたしは、上下のサイズを変えなければ試合に出られない。おまけに、袖や裾の長さも多少カットしないとならないため、道衣一着二万円だとすると合計五万円ほどの"超豪華なユニフォーム"となってしまうのだ。

とはいえルールはルールであり、なるべく軽量な道衣を求めているこちらの都合もあることから、この出費は必要経費として受け入れなければならない。そんな事情も相まって、わたしのフォルムにマッチした「URABE特製道衣」を引っさげ、試合に参戦したのである。

 

・・以上のことからも、わたしが道衣チェックで引っかかることはない。だが、事もあろうに遠路はるばるやってきた後輩が、見事に引っ掛かってしまったのだ。

 

「その道衣だと、そもそもダメですね」

袖や裾の長さ・太さがダメなのではなく、道衣に付いているタグの位置がダメだった模様。とはいえ、過去に何度もこの道衣で試合に出ており、まさかそれで引っかかるとは思ってもいない様子だが、奇しくも直近でレギュレーションが変わったことを知らなかった後輩に非がある。

しかしながら、試合直前で道衣チェックを通過するには、適正な道衣に着替える以外に方法はないので、わたしが予備として持参したお気に入りの道衣を、後輩に貸すことにしたのだ。

 

こちらも当然ながら、軽量であり袖や裾もわたし用にアジャストさせてあるので、市販の道衣よりもいい感じに着られるのは間違いない。しかしながら、尻と太ももが異常にデカいわたし用パンツなので、細身で小柄な後輩にとって下半身はブカブカになってしまうだろうが・・。

というわけで、ダッシュで着替えを済ませると再び道衣チェックエリアへ向かった我々は、念のため予備計量用の体重計に乗ってみた——ご、50グラムオーバーしているじゃないか。

これは大ピンチである。50グラムでもオーバーしていたら、当たり前だが試合には出られない。いくらわたしの道衣が軽量とはいえ、後輩が持参した道衣のほうが軽かったのだ。中国地方からわざわざ飛行機に乗ってやってきたというのに、試合もせずに終わらせることなどできるはずもない・・・そうだ、本番用のわたしの道衣を貸そう。これならば50グラム以上の減量が実現するはず。

 

こうしてわたしは、着ていた道衣の上着を颯爽と脱ぎ捨てると、脇の部分が汗で湿っていたので、それを乾かすべくまるでロウリュのアウフグース(熱波)職人のように、バサバサと扇ぎ始めた。

タンクトップからゴリゴリの肩と腕をむき出しにしたわたしが、バッサバッサと道衣で風邪を作り出している姿は、見る人が見れば間違いなく"サウナの熱波士"を彷彿とさせただろう。こうして、ある程度の湿気を取り除いた上着を後輩に手渡し、すかさず体重計に乗せたところ——よし、アンダーだ!!!

 

わたしの本番用道衣には、所属ジムのマークや名前がデカデカと入っている。そして後輩は、かつては同系列のジムに所属していたが、ジムの閉鎖や就職の関係で現在は別の道場に所属している。そんなことからも、所属道場の道衣が必須ではないにせよ、他道場のマークが入った道衣で試合に出ることは、決して望ましいとはいえないわけだ。

しかしながら試合は目前に迫っているわけで、ここで躊躇する余裕などない。こうなったら思い切って、わたしの所属ジムの道衣を纏ってマットに立つしかないのだ!

 

というわけで後輩は、無事に道衣チェックをクリアしたのである。

 

 

試合が終わってみれば、なんと後輩は全日本選手権を優勝したではないか。これは間違いなくわたしの道衣のおかげだろう。

要するに、わたしのナイスアシストのおかげで後輩は日本一に輝いたわけで、ということは日本一のアシストをしたのはこのわたしであり、わたしにとっても今年一番の快挙を達成したことになる。

 

——うん、今日はいい日だ。

 

Illustrated by 希鳳

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