〇〇依存症からの脱却は、そんな甘いものではなかった

約3か月の沈黙を破り、とうとう「禁断のアプリ」をクリックしてしまったわたし。あぁ、よりによってこんな深夜にやらかしてしまうとは——。

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深夜二時過ぎ、わたしはウーバーイーツで韓国料理を注文した。なぜこんな時間に・・と、商品が到着するまでは後悔の念に苛まれていたが、食べ物を目の前にするとすっかり気持ちが切り替わるあたり、単純である。

ちょうど一年前、わたしは深刻な財政危機を突きつけられたため、泣く泣くウーバーイーツのサブスクを終了させた。大した稼ぎもないのに、多い時で一日6回も食事やコーヒーの注文をし、おまけに気前よくチップまで支払っていたことから、一か月でン十万円が消えていったのだ。

ウーバーイーツのサブスクは、禁止薬物ばりの威力がある。なんせ、月額498円で配達手数料が無料になったり、メンバー限定のプロモーションがあったり、最も遅い到着予定時刻を過ぎた場合には500円のクレジットが付与されたりと、498円など一瞬で回収できるほどの魅力的な特典が用意されているからだ。

そしてサブスクを引退してからは、配達手数料は50円の店舗のみを選んでいた。サブスクメンバー当時は、配達手数料など気にしたこともなかったが、今となっては好きな店を選ぶことは許されず、絶対条件として配達手数料50円（最安値）の店舗しか視界に入らなくなっていた。

それでも、商品の値段は店舗で注文するよりも割高で、本来ならば千円のカレーが千五百円するのだから、配達手数料を多少ケチったところでダメージが減るわけでもない。

（こんなバカバカしい茶番は、やめにしよう・・）

貧乏人は貧乏人らしく、静かに慎ましやかに生きていくべきなのだ。当然、面倒くさがることは罪にあたる。どんな手間暇かかることであっても、惜しむことなく真摯に受けとめて実行するのが、貧乏人のさだめなのだから。

にもかかわらず、＂料理＂という苦行を受け入れることができないわたしは、近所のスーパーで出来合いの惣菜や果物を買ってきては貪り食っていた。

そんな、かつてに比べると穏やかな日々を過ごしてきたのだが、なぜか今日、突如ウーバーイーツが脳裏をよぎったのだ。

実のところ、大して腹は減っていなかった。食べ物があれば食べる・・という程度の胃袋具合いだったのに、無意識の興味本位で深夜営業している料理店をチラッと見てしまったのだ。

ウーバーイーツに掲載される料理の画像は、プロのカメラマンが撮影したものなので、見栄えがいいし完璧に美味そうに写っている。

食べ物を売るのにマズそうな画像を載せるバカはいないので、当たり前といえば当たり前なのだが、躍動感溢れるパワフルな料理たちに、思わず魂を吸い取られてしまったのだ。

（やっぱり韓国料理がいいな・・）

深夜といえば、こってり濃厚な料理の出番である。たとえば背脂たっぷりラーメンやマヨネーズまみれのたこ焼きなど、昼間食べても感動などしないであろう一品が、夜中はなぜか輝いて見えるから不思議だ。

そして、＂深夜＂というスパイスが最大限に効果をもたらす商品を選ぶのが、後ろめたさに対するせめてもの誠意だろう。となると、選ぶべきは中華料理か韓国料理——。

その瞬間、わたしは配達手数料50円の韓国料理店を見つけてしまったのだ。

（深夜二時にあたたかい食べ物を配達してくれる贅沢、たまにはアリだろう・・・）

覚悟を決めたわたしは、ネギチヂミと野菜チャーハン、さらにチャプチェ、おまけに「ブデチゲ」を選んだ。

ブデチゲとは、

「1950年代、朝鮮戦争のために駐屯していた米軍の部隊から、ソーセージやハム、ベーコンなどの加工食品が流れ込んできました。これらの加工食品を辛く煮込み、飢えをしのぐために食べ始めたのが、ブデ（部隊）チゲとして今に至っているのです。」

と、味の素株式会社の韓国料理豆知識でも説明されているが、多くの場合、ソーセージのほかに「モチ」や「ラーメン」が入っているので、殊にモチ好きのわたしとしてはブデチゲを外すことができないのである。

こうして、一食分としてはかなり高額かつ高カロリーな韓国料理を、めでたく注文したのである。

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完食した今、思い浮かぶことといえば「なぜ、ミカンを胃袋へ詰め込むことで、食欲を紛らわせなかったのだろうか」という、至極真っ当な疑問だけだった。

深夜にわざわざ7,500円を払ってまで、さほど空腹でもないのに大量の韓国料理を注文した理由はなんだろう。おまけに、配達員へ感謝の気持ちを込めてチップまで支払ったわけで・・。

とにもかくにも、ウーバーイーツのアプリは即刻、削除するべきである。なぜなら、薬物依存症に近い依存度と常習性があるため、知らず知らずのうちに懐が甚大な被害を被ってしまうからだ。

それにしても、深夜のブデチゲというか辛ラーメンは、大きな背徳感とともにクセになる美味さを与えてくれるあたり、「深夜の背徳グルメ」を名乗るに相応しい料理といえるだろう。