午前8時半のドライコフ・アタック

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ここ最近、声が出ないとか空咳が続くとか、わたしと似たような症状に苦しむ知人友人が増えている。というか、知っている限りでこんなにも存在するとは、驚きの発生率である。

しかもそのほとんどが発熱もなく元気なのだ。声だけがかすれてしまったり、薬を飲んでいるにもかかわらず空咳が止まらなかったりと、いわゆる風邪ではなくアレルギー症状というのも一致している。

つまり、ウイルスや細菌の感染ではないのに、多くの人間が同じ症状を発症しているということだ。そういえば有名ユーチューバーたちも、立て続けに「声が出ない」動画を出していたので、やはりわたしの知り合いレベルではなく、わりと多くの人間が同様の状態にあるといえる。

 

この咳喘息に苦しまされて、はや15年が過ぎようとしている。アレルゲンは分かっていない。150種類の検査をしたところで、食物性抗原も吸入性抗原も接触抗原も薬物抗原も、なにも該当しなかったのだから逆に驚きである。

担当医も「ここまで何も出ないのは珍しい。今さらアレルゲンを特定したところで、避けようのないものである可能性が高いから、知らなくても問題ないでしょう」と、軽くさじを投げる始末。

アレルギー疾患ゆえに咳以外はピンピンしているのだが、感染などしないにせよ他人には気を使わなければならず、精神的にも疲れるわけだ。

 

(メディアもコロナの時のように騒げばいいのに・・)

スポンサーの意向ではないニュースは、マスメディアでは一切報道されない。ほんと、呆れるくらいに「強気に媚びる」を徹底している。

「まさかの声を奪う恐怖の新型ウイルスか?!」

「原因不明の咳が続く、恐るべきワクチン後遺症!?」

いくらでもバカが飛びつきそうなキャッチーなタイトルが浮かぶ。現実的に起きている出来事で、世の中の役に立つ番組を作ればいいのに、そもそもの存在意義を履き違えているのだからどうしようもない。

 

とにかく、朝の8時半をピークに気管支が痙攣し気道が狭窄するわたしは、その時間が怖くてしょうがない。雑務を終えてアイマスクを装着し、ようやく就寝…というタイミングで、こみ上げてくる咳のマシンガンに命を狙われるのだ。

初めのうちはベッドで横になっていたが、咳の勢いは上体を持ち上がるほどの威力があるため、最近ではソファに道着を積み上げて、飛行機や新幹線のシートを倒したくらいの角度を維持して寝ることにしている。

 

それでも朝が怖い。発作的に襲い来る猛烈な咳は、わたしに息を吸わせまいと連続で攻撃を仕掛けてくる。おまけに、気管支がヒクヒクするような、気道がペッタリくっ付くような、それはもうわたしの力ではどうにもならない状態が、強制的かつ恐ろしい速度で迫ってくるのだ。

今朝もそうだったが、スマホを握りしめたわたしは「119」と無意識にタップしていた。あとは受話器のマークを押せば、救急車を呼ぶことができる——。

だが実際に消防に繋がることはない。それが正解であるし、今もまだわたしは生きているのだから、救急車など呼ばなくてよかった。

 

しかし、吸い込んだ空気を肺へと送り込む唯一のパイプである気道が塞がれてしまったら、それはやはり死を意味する。しかも脱臼した指や肩をはめるのとは違い、どんなにイメージしたところで、どうしたら狭窄した気道を広げられるのか、痙攣している気管支を止められるのか分からない。

これは早急に解決できる問題ではないので、おとなしく現実に身をゆだねるしかない。発作がピークに達してあらゆる体液を垂れ流しながらも、なんとか気道が開いてくれたら助かる。だが、そのまま閉じていたらジ・エンドという二択しかない。

たったそれだけのことだし、自力ではどうにもならない状況なのだから、騒ごうが暴れようが何も変わらない。そのたびにわたしは、いったん、人生の終了を覚悟するのであった。

 

だから今夜は、朝まで起きていようと思う。少しでも寝ると午前8時半の発作的な咳の猛攻に遭うのだから、ずっと起きていたら状況は変わるかもしれない。

薬ではコントロールできない部分は、自分でどうにかするしかない。この先も続くであろう、この苦痛から少しでも逃れる術を編み出すべく、わたしは今日も人体実験を繰り返すのであった。

 

サムネイル by 希鳳

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