もしかして・・・私、嫌われてる?!

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わたしはブラジリアン柔術というスポーツを嗜んでいるが、わたしの師匠は恥ずかしがり屋である。なんせ過去には、試合会場にいるにも関わらず、わたしの試合が行われている最中に、会場の隅っこで静かに寝ていたのだから——。

 

ちなみに今日も試合があった。本日は特別なルールで、実際に試合をするマット付近には、柔術界の頂点に君臨する「黒帯保持者」しか入ることができない・・という制限があった。そのため、選手と関係者以外は黒帯!という圧巻の光景が広がっていたのだ。

黒帯というのは、何年も柔術を続け心身ともに充実した人間が巻く帯の色である。無論、人間性の評価など黒帯の判定には関係ないかもしれないが、それでも、わたしが憧れる黒帯の先生や選手というのは皆、人間性も優れているのである。

 

そして当然ながらわたしの師匠も黒帯であり、圧倒的な存在感と安心感を放つ彼が背後から目で見守ってくれるとなれば、こちらも落ち着いて試合に挑むことができる・・・と思いきや、誰もいないじゃないか!!!

(なにっ!?どこに隠れているんだ)

キョロキョロするも、師匠の姿は見当たらない——恥ずかしがり屋だから、きっと見えないところに隠れているのだろう。だが、もしもそうじゃなければセコンドがいないことになる・・。

わたしは、昔から一人で試合に参加することが多かったため、そこまでセコンドという存在に重きを置くタイプではない。だがやはり、試合時に近くに味方がいてくれることが心強いのは言うまでもなく、そういう意味では最強のセコンドである"黒帯の師匠"が、どっしりと構えてくれるに越したことはない。

 

そんなわけで、師匠は後から駆け込んでくるか、あるいはもうすでにその辺で待機しているか・・と、高を括ってマットへ上がったのだ。ところが、試合が始まり聞こえてくるのは、相手のセコンドの声ばかり。おかしいな、わたしのセコンドはどこにいるんだ——。

そうこうするうちに、いつの間にか試合は終わった。そして、マットから降りて辺りを見渡すも師匠の姿は見当たらない。その代わり・・というか何というか、よその道場の黒帯の先生がニコニコしながらその場に立っていたのだ。

(誰も応援してくれないよりはマシだな。さっそく礼を伝えねば・・・)

そんなことを思いながら黒帯の先生の元へ近づくと、彼はニコニコしながらこう言った。

「試合、見てたよ!応援はしてないけど!」

オイオイオイッ!ただ見てただけかよ!!とツッコみそうになった。——いや違う。彼もきっと、恥ずかしがり屋なのだ。だからこそ本当のことを口にできずに、応援はしていない・・などと嘘をついたのだ。

そう言い聞かせると、ひとり寂しく表彰台へと向かった。

 

(・・・・・・)

そして表彰台に立ったわたしは、師匠を含む道場のメンバーはおろか、友人知人顔見知りなどなど、わたしのために集まってくれた人間など一人もいない・・という現実を突きつけられたのだ。

表彰台でメダルをかけてもらい、全員で記念撮影が行われるが、相手のチームメイトや友人はスマホを掲げているのに、わたしの知っている顔はどこにもない——これはもしや、わたしは嫌われているのか・・・?

 

極めつけは最後の試合中、我が師匠は事もあろうに相手選手の応援をしていた・・という情報を入手したのである。

(なんてことだ、あの浮気者め!セコンドにいなくても、せめて弟子を応援しろ!!)

 

 

前回、試合会場でバナナやリンゴなど大量のエサを与えてもらったわたしは、今回もきっとたくさんの食糧にありつけるものだと、勝手に思い込んでいた。そのため、まったくの手ぶらでやって来たのだが、今日は誰からもエサを与えてもらえなかった。

このような事情から、夕方近くには空腹により立っているのもやっとの状態になってしまったのだ。

 

「黒糖まんじゅう、あんこ残していいから食べる?」

友人はバッグの底から潰れかけたまんじゅうを引っ張り出すと、おもむろにわたしへと差し出した。——もしも、まんじゅうの皮が8割であんこが2割ならば手を伸ばしたかもしれない。だが、この手のまんじゅうはズッシリとあんこが詰まっているため、皮だけを食べたところで大した満足は得られないことを、わたしは知っている。

以上のことからも、丁重にお断りをしたのである。

 

(あぁ、やはりわたしは誰からも好かれていないのだ・・・)

そんなことを思いながら、友人のポカリスエットを勝手に開けて飲むのであった。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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