さらしとわたし

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私は今日、人生初となる「さらし」を巻いた。

勘違いしないでもらいたいのだが、祇園祭や阿波踊りに参加するわけでも、妊娠5か月を迎えたわけでもない。もちろん、産後の骨盤矯正のためでもない。

だが、骨盤を固定する目的であることに変わりはないのだが。

 

さらしというのは、綿100%でできており、力強く引っ張ってもほぼ伸びない。固定用の包帯の薄っぺらい感じをイメージしてもらえば、分かりやすいだろう。

つまり、ギュウギュウに巻いてしまうと身動きが取れなくなるのだ。

 

骨盤は座ると広がるため、座った時にギュッと押さえてくれる程度の締まり具合で巻くとちょうどいい。つまり、立った状態で巻いてもらうとブカブカなのだ。

「けっこうゆるいけど、これでいいんですか?」

心配そうに尋ねる私に向かって、

「座ってみてください」

と笑顔で答える先生。その瞬間、私は座らずして理解できた。

 

これはテーピングと同じだ。

固定目的のテーピングはガチガチに巻くわけだが、たとえば足の指や甲の怪我予防としてテーピングする場合、地面をギュッと踏みつけた状態で巻かないと大変なことになる。

空中に浮かせた状態でテーピングすると、踏み込んだ時の足幅よりも狭いため、実際に地面に立って足底に力を入れるとうっ血する。

そしてそのまま運動を続けると、テーピングが裂けたり、逆に足の皮膚が切れたりするので要注意。

 

こうして、私の尻が最大限に広がった時の外周を想定し、さらしを巻いてもらったのである。

 

生まれて初めて「さらし」というやつを巻いたのだが、座り心地は抜群だ。そりゃそうだ、骨盤をギュッと締めてもらっているのだから、楽に決まっている。

そういえば、座る部分が椀のように丸くくぼんでいる椅子があるが、あれに座っていると腰が痛くなりにくい。ドーナツ型のクッションを敷いても同じ効果が得られるが、あれらも骨盤が開かない形状だからなのだろう。

 

最強の拘束具を装着した私は、軽やかな気持ちで電車の座席に座ると、ウトウトしながら帰宅の途に就いた。

 

 

(・・・こ、これは)

 

自宅で鏡を見た私は驚愕した。全裸の私は、立派なおしめを巻いた子ども、いや、大人だったのだ。

 

(これは、もはやおむつではない、おしめだ!)

 

そもそも「おむつ」も「おしめ」も同じものを指す。おむつは「襁褓(むつき)」が語源とされ、平安時代の頃から使用されていた。そして、おしめは「湿布(しめし)」から生まれた用語で、こちらのほうがやや古くから頻出しているらしい。

1903年版「家庭小話」や、1912年刊行の「育児のしをり」などにも、「をしめ(おしめ)」が登場する。その点「おむつ」が主流となったのは、昭和に入ってからの模様。

 

そして鏡に映る私は紛れもなく、おむつではなくおしめを巻いた大人だった。

 

だが見方によっては、旧石器時代のたくましい男に見えなくもない。ブカブカのさらしを颯爽と巻き、仁王立ちする姿は勇ましさすら感じる。このさらしが葉っぱや動物の皮であれば、間違いなく旧石器時代の狩人だ。

 

しかし、さらしがないと腰が痛むわけで、剥ぎとるわけにはいかない。別に誰に見せるわけでもないので、おしめ姿の私はそっとズボンを履いた。

 

とはいえ「さらしを腰(腹)に巻く」という行為は、見た目は恥ずかしいが効果は抜群である。

 

サムネイル by 希鳳

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