「あ!そうそう、言いたいことがあるの」
待ち合わせ場所で顔を合わせた途端、友人がそう言った。
彼女は率先して意見を述べるようなタイプではないが、なにやら鼻をフンフン言わせて近づいてくる。
わたしが何かしたのだろうか?
「ラング・ド・シャの袋の開け方だけどさ、あれ、違うから!」
いったいなんの話かと思えば、先日、わたしがラングドシャの個包装の切り口が間違っている、と主張したことに対する反論だった。
一箇所だけ縦に切込みが入っている、ラングドシャの個包装。あそこから普通に切り開いていけば、必然的にラングドシャ本体に触れる。
そのため毎回、クッキー生地が欠けたり粉がポロポロこぼれたりと、食べるのに苦労するのだ。
ただでさえ薄っぺらい生地に腹を立てているというのに、さらにこのような仕打ちを受けるとは、さすがのわたしも我慢の限界である。
このような理由からも、あの上品ぶった猫の舌=ラングドシャが嫌いなのだ。
そのわたしに向かって、友人は真っ向勝負を挑んできた。奇遇にも、持参したるはラングドシャ。
「今からこのお菓子を、きれいに袋から出してみせるから」
と、得意顔で切り口を探している。
(・・・べつに、きれいに出せても出せなくても、どっちでもいいんだけど)
そう、わたしにとったらかなりどうでもいいことなのだが、前のめりの友人に向かってそんなことは言えない。仕方なく、黙って彼女の指先を見つめた。
「あのね、コツがあるの。この切り口をそのまま下ろせば、そりゃクッキーに当たるよ」
そんなことは分かっている。だからこそ、縦に裂くような切込みを入れなければいいのに、と言っているのだから。
「これはね、ちょっと外側に引っ張りながら開けるんだよ」
得意げに透明なフィルムをつまむと、ちょっと外側にひねりながら開封してみせた。
「あっ!」
二人同時に叫んだ。なんと、きれいに開封したはずのラングドシャが、割れてしまったからだ。
とはいえこれは彼女のせいではない。おおよそ開封前から割れていたと思われる。運が悪かったのだ。
すぐさま、いそいそと二つ目を開封する友人。今度は上手くいった。きれいな丸を維持したままの、ラングドシャが姿を現した。
どうでもいいことだが、なぜかわたしもホッとした。
「つまりね、外側に引っ張りながら破ればうまくいくんだよ」
ラングドシャを頬張りながら、嬉しそうに説明する友人。せっかくのご提案だが、その方法はあまりにリスクが高すぎる。
なぜなら、手元が狂えば一瞬で外側まで破ってしまうため、個包装に小さな丸い口が開くだけで終了となるからだ。
こうなったら最悪だ。中に取り残されたラングドシャを粉々に割り砕いて、小さな丸い口から粉薬を注ぎ込むかのようにして食べるしかない。
さらに、袋を外側に向かって細長く裂くことに成功したとしても、一番下まで口が開かなければ、中身のクッキーを取り出すことはできない。半分に割るか、指で強引に口を広げるかのいずれかの手段を取らなければならない。
そんなことをするうちに、再びクッキーが欠けたり粉が発生したりするわけで、さほど妙案とは思えないのだ。
とにかく、縦の切込みを採用するならば、「カロリーメイト」のようにギザギザの切込みをたくさん作るしかない。あれならば好きなところから開封できるため、少なからず成功率は上がるだろう。
「柿の種」もそうだ。ギザギザの端っこを小さく切り裂いて、そこから流し込むように食べれば、手を汚すことなく味わうことができる。指でつまむならば、外側をまっすぐ切り割けば大きな口ができるわけで、遠慮なくつまむことができる。
このように「縦の切込み」を採用・維持するには、それなりの企業努力が必要となるわけだ。
それが無理ならば、横から開封できる仕組みを取り入れなければならない。なぜなら、繊細で美しい「猫の舌」を、傷つけることなく取り出すには必要不可欠だからだ。
とそこで、ラングドシャを食べ終わった友人が、ボソッと一言つぶやいた。
「ハサミで開封すれば、いいだけのことなんだけどね」
まぁ、そのとおりだ。ラクをしようとするから、どこかに歪が生じる。めんどくさがらずに、ハサミを使ってキレイに口を開ければ問題は起きないわけで。
ラングドシャがおやつの定番であるお嬢様たちは、きっとハサミで開封しているのだろう。
だからこそ、「個包装が開けにくい!」などという低レベルな反応は生まれないのだろう。
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