ショウマルのミズスマシ

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ショウマルのミズスマシ――。

このネーミングが良い悪いかは別として、自分の名前以外に呼び方があるというのはカッコいいことである。

 

近場の有名どころでいえば、朝倉未来に対する畏怖の念を込めた「路上の伝説」だろう。

ストリートファイトで連戦連勝、負け知らずの朝倉を人はこう呼ぶのである。

 

ちなみに、伝説とか奇跡といったワードは、その二文字がつくだけでカッコいい。

前後にどんな安っぽい侮蔑語を組み合わせたとしても、すべてを帳消しにするほどの威力を持っているというわけだ。

 

 

ここ最近、お気に入りのアニメがある。その名は頭文字(イニシャル)D

今ではありえない設定だが、関東エリアの峠をマニュアル車で走り、そのスピードを競うバトルの話である。

 

しかし特筆すべきは、そこで使われるワードがいちいちカッコいいことだ。

 

簡単なところでは、助手席のことを「ナビシート」、道路のカーブを「コーナー」と呼ぶ。

さらにハンドルは「ステアリング」、峠をのぼる人を「ヒルクライマー」、逆にくだる人を「ダウンヒラー」などなど、その単語だけでめちゃくちゃカッコいいのである。

 

「ワンハンドステアのダウンヒラーが、コーナーのライン取りミスってどアンダー出したのを、ナビシートで体験しちゃったよ」

 

走り屋でもない限り、いったい何のことだか分からないだろう。褒めてるのか貶(けな)しているのかすら、分からないかもしれない。

だがこれこそがカッコいいのだ。意味があろうがなかろうが、専門用語をスラスラ並べるだけで、なんとなくカッコイイ雰囲気が出るじゃないか。

 

そんな走り屋の物語である頭文字Dについて、かつてラリーに出場していた友人に質問を投げてみた。

 

「ステアリングと右手を、ガムテープで固定してバトルする『ガムテープデスマッチ』って、本当にできるの?」

 

すると友人は、

「あれはFFか四駆ならできるよ。ハチロクみたいなFRじゃ無理だけど」

と、サラリと答えてくれた。ここでもまた、走り屋というか車好きの専門用語が飛び出したわけだ。

 

(・・・か、かっこいい)

 

他にも様々な公道バトルの質問を重ねるうちに、友人のとんでもない逸話が飛び出した。

 

「俺は正丸峠がホームコース。当時はカネもないしタイヤがもったいないから、雨の日ばかり走ってた。だから『正丸のミズスマシ』って呼ばれてたんだよね」

 

(しょ、しょうまるのみずすまし・・・)

 

地名+生き物という、王道タッグのニックネームである。

ちなみに、地名をニックネームに組み込めるのは、その地域でトップクラスの実力なり名声なりがある証だ。

さらに「ミズスマシ」というチョイスが、これまた絶妙で味がある。雨や水に由来する生き物ならば、他にもたくさんいるにもかかわらず、あえてミズスマシを選んだあたりに名付け親のセンスを感じる。

 

それに比べてわたしは、女王ゴリラとかフィジカルモンスターとか、地名も入っていなければ、生き物というか架空の生き物というか、あまり褒められたニックネームではない。

これならば友人の「ショウマルのミズスマシ」のほうが、名前の由来を知れば明らかにカッコイイわけで羨ましい。

 

百歩譲って、峠のレースを知らなかったとしても、「ショウマルのミズスマシ」と聞けば、「きっと、正丸峠にまつわる有名人なのだろう」という想像がつくわけで、それだけでも称賛を浴びること必至。

 

ちなみに頭文字Dのメインキャラクターの、イケメン医大生かつ走り屋のカリスマという、ひどく不公平な設定の彼には、「赤城の白い彗星」というニックネームがついている。

赤城は地名。そして白い彗星は、彼の車のボディがクリスタルホワイトであることと、ガンダムに登場するシャア・アズナブルのニックネーム「赤い彗星」を掛け合わせたもので、めちゃくちゃカッコいい呼び方なのだ。

 

アニメかぶれのわたしは、自分にも何らかのニックネームがほしいと考えている。

しかし咄嗟に思いつくものといえば、

「港区のカピバラヘア」

「白金のメスゴリラ」

くらいだろうか。

 

――あぁ、わたしも、聞いただけで鳥肌が立つようなカッコいいニックネームがほしい。

 

Illustrated by おおとりのぞみ

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