KINGDUMP 著/URABE

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首都高から新東名高速道路を進み、路面状態の悪い旧道を乗り越えて建設途中の中部縦貫自動車道を突き抜け、わたしは福井県勝山市に到着した。

道中、何度か休憩を挟んだため、片道500キロの移動に7時間半を費やしたが、これは決して遅くはない。なぜなら、本日の「足」は愛車のスカイラインでも乗用車のレンタカーでもないからだ。

ではいったい、何に乗っているのか——。それは、自動車の王様であるトラックの中でも頂点を極める存在、キングオブトラックこと「ダンプカー」である。

 

弱肉強食の世界において、ダンプカーに敵う車はいない。なんせ、土砂や瓦礫を悠々と運ぶだけでなく、荷台をスライドさせることで重機や車も運べるからだ。

この分厚くて頑丈な荷台をもってすれば、一般車両など綿アメ同然。さらにダンプカーから見下ろす軽自動車など、地面に群がるアリのよう。

 

とにかく、強固かつ頑丈であることこそが王者の証。そして、土砂をどさっと流し落とすことのできるダンプは、高い戦闘力を持った車なのだ。

あぁ、ポルシェが、ベンツが、ロールスロイスが、我がダンプの足元をすごすごと通り過ぎて行くではないか——。

普段ならば、こちらがひれ伏すほどの存在感とラグジュアリーさを振りまいている高級外車の面々。ところが今はどうだ、このおんぼろダンプと目を合わせることすらできず、尻尾を巻いて逃げていくわけで。

 

さらに、いつもならば気になる走行速度も、ダンプに乗っていればまったく気にならない。むしろ忙(せわ)しく追い抜く乗用車たちを見ると、「なにをそんなに焦っているのだろうか?」と不思議に思うほど。

その様子は、まさに馬車馬のように働かされる社畜を彷彿とさせるのだ。

(なるほど、これこそが王者の余裕ってやつか・・)

ベンチシートのようなリクライニングのきかない硬い椅子で、姿勢よく前を向きながら眼下を嘲笑うわたしなのである。

 

 

どう頑張ってもこれ以上スピードは出ないワシは、キッチリ80キロをキープしている。だが生き急ぐ小さな車たちは、まるで豆鉄砲のようにビュンビュン飛ばしては消えていく。

まぁ、上に立つ者はどっしりと構えているものじゃ。あくせく働くのは下っ端の役目であり、ここは高みの見物といこうじゃないか。

 

とそこへ、われわれの仲間が現れた。——フルトレーラーじゃ。

奴の圧倒的な長さとスマートなフォルムは、トラック界の貴公子と呼ばれている。傷だらけでパワー勝負のワシらダンプカーに比べて、流れるような美しいボディで周囲を魅了するトレーラーは、まさに相対するポジションじゃろう。

そんなワシらしゃが、じつは互いを尊重し誇りに思っている。

生まれも育ちも与えられた任務も異なるが、トラック界の両横綱として、互いに切磋琢磨し高め合っているのじゃ。

 

・・背後から流星の如く現れたトレーラーは、あっという間にワシを追い抜いた。

相変わらずのすまし顔だが、ほんの少しだけニヤついた瞬間をワシは見逃さなかったぞ。——くれぐれも気をつけて走れよ。

こうしてワシは、トラック界の長老としてさまざまな車両を見渡しながら、ゆっくりと歩を進めるのである。

 

それにしても、高速道路を走っていると特に感じることじゃが、都内では調子に乗った外車のチンピラどもが、ここではワシを避けるように逃げていく。

そりゃそうじゃ。いくら老いぼれとはいえ、頑丈さとパワー勝負ではワシに勝てっこないのだから。

そして改めて思う、パワーこそが強さなのじゃと!

 

それにしても、さっきからずっと「ビックリマーク」が消えないのはなぜじゃ。ネットで調べてもらうと「ブレーキ系統の重大な故障」とのことだが、ワシはすこぶる元気である。

そもそもエアブレーキのワシは、コンプレッサーが正常ならばブレーキに故障は起きない。おまけに排気ブレーキも絶好調とくれば、いったいどこに不具合があるというのか。

 

とはいえ、御年30歳(人間で言うところの60歳くらいじゃろうか)を超えるワシは、それなりにガタはきている。キャビン内も蜘蛛の巣やらホコリやらでとんでもない汚さ。さらにシガーソケットは電気が通っておらず、スマホの充電ができないときている。

(往復千キロの長い道のりにもかかわらず、途中でスマホが死んだらどうするんだ!)

・・そんな文句が聞こえてくるが、ワシには関係のない話である。年長者として、若い車たちに目を光らせるのが仕事なのじゃから。

(了)

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