うらみだいふく

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本日は気分がわるい。

人間だから不機嫌な日もあるが、やる気も出ない上に気分がわるいとなると、もはや一人では解決できない。

 

目にするものすべてが憎く、あさましく、何かにつけてケチをつけたくなる。

たとえば掛け布団。なぜ布団カバーと中身の布団がこんなにもずれているのだ。毎日毎日、布団のすみっことカバーを引っ張って隙間なく整えているのに、朝起きればカバーだけがベロンとはだけて肝心の布団が奥のほうで丸まっている。これを直すのがどれほど面倒くさくて苦痛なことか。考えただけで反吐が出る。

 

イライラしてもしょうがないので、喉でも潤そうとホテルのミニバーのようなワンドアの冷蔵庫を開ける。すると、ドアポケットに立ててあるペットボトルの水が凍っているではないか。

ーーそうだ、雪見だいふくを製氷機で保存するために、冷蔵庫内の温度を最大に下げたんだ。

ペットボトルを振るとガタガタと筒状の氷が躍る。とてもじゃないが飲めない。

 

なによりも最悪なのは、雪見だいふくの野郎がグニャグニャに溶けている!

 

怒りのあまり雪見だいふくをゴミ箱へ投げつけようとするが、新商品の「ふんわりクリームチーズ味」なのでそれはできない。

歯ごたえなどまるでない、つまめばぶにょんと伸びるアイスの失敗作を忌々しく見つめる。表面を覆うモチ生地のおかげで、辛うじて中のアイスは漏れ出ていないが、一口破れば一気に流出するだろう。

考えただけで腹が立つ。なにより結果が見えていることが許せない。

 

それでもなんとか気持ちを落ち着かせ、雪見だいふくを口へと放り込む。一口で食べるサイズではないことくらいわかっていた。だが、その結果どうなるのかを想像しなかったことが、災いをもたらした。

 

雪見だいふくを全力で噛みしめた瞬間、口の両端から溶けたアイスがブシュっと飛び出たのだ。

 

顔とパーカー、さらにソファーや床にまでアイスが飛び散る悲惨な状況。わたしは怒りとショックで気を失いそうになる。それでもなんとか堪え、鼻息荒く液状のアイスを拭きとった。

 

アイスでベトベトの手を洗おうとした時、ハンドソープが空であることに気づく。しかし詰め替えを常備しているので、焦ることなくそれを空のボトルへと流しむ。

気が付いたというか気になったのは、ボトルは「泡タイプ」だが詰め替えは「液体タイプ」ということ。

これはまさかーー。

嫌な予感しかしないが、これまでが嫌な予感以上の出来事しか起きていないわけで、もうどうにでもなれとポンプをプッシュ。

 

シュコシュコ何度か連打すると、ダラッと泡のできそこないが垂れてきた。そのテクスチャーがさらに感情を逆なでするが、意固地になっているわたしはポンプを連打する。

泡なんだか泡じゃないんだか分からない、中途半端にドロッとした白い石鹸が垂れ落ちる。どこかで見たような。

 

ーーさっき飛び散ったアイスだ!!

 

我慢し続けていた怒りが爆発した。この情けない溶けたアイス状の液体は、いくら石鹸といえど胸糞わるすぎて使う気にはなれない。

ポンプを押してもだらしなく垂れるだけ、ましてや液体タイプの詰め替えのため、泡タイプのノズルでは大きすぎるのだ。それゆえ、大量の石鹸が無駄に流れ出る始末。

わたしは震える手でボトルを捻り開けると、注いだばかりの詰め替え用液体石鹸をシンクへぶちまける。そして空の容器はゴミ箱へ叩き込んでやった。

 

肩で息をしながらわたしは考えた。

ーーこのままではまずい、外へ出よう。

 

しかし現在の状況から外へ出るには、いくつかの工程を踏まなければならない。顔を洗って、歯を磨いて、髪の毛を整えて。コンタクトを入れて。

ーーさすがに部屋着で十分だろう。

ひとまず身なりを見直す。ネイビーのスウェットパンツはハードに履きこまれた結果、白く毛羽立ち足首のゴムがびろんとなっている。膝も伸びて布が余っている。上着のパーカーはプリントされたシールの角が浮いており、いっそのことベリッと剥いだ方がきれいなんじゃないかと思うほど。

 

この出で立ちで大都会・港区をうろついたところで、わたしの気分は晴れるのだろうか。

もしもすれ違いざま、誰かの憐れむような目に気づいてしまったら、ただでは済まないかもしれない。

 

ーーやめた。

 

裸足でベランダに出ると目の前のタワーマンションを見上げる。食い散らかしたような雲の破片が青空をゆっくりと流れていく。

 

笑いたければ笑えばいい。

みすぼらしい、見苦しい、意地汚いわたしを蔑めばいい。

虚弱と自尊の二枚舌、上等だ。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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