半年にわたる旅の終わり

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わたしは今日、およそ半年にわたるプレッシャーから開放された。

プレッシャー・・というとちょっと大袈裟かもしれないが、この書類が受理されるまでは気持ちが休まることはなく、「早く手放したい」と思いつつも時が到来するのを待つしかなかったのは事実。

とはいえ、これがわたしの仕事なのだから当然のことであり、それが嫌なら社労士を辞めればいい——。それでも、結果の見えない申請をするのは、心細くもあり恐ろしくもあり、とにかく早く終わらせたい気持ちで一杯だった。

 

その「プレッシャー」は何かというと、障害年金の請求にかかる代理申請だ。

 

おそらく、社労士業務の中でも専門性が高く、色々な意味で「難しい案件」とされるのが障害年金だろう。わたし自身も、手放しで喜んで引き受けることはないし、ヒヤリングを重ね年金保険料の納付記録を確認した上でようやく着手・・となるため、その時点で障害年金を断念せざるを得ない状況というのも十分にあり得る。

なかでも辛いのは、「依頼人は障害状態にあるが、年金保険料の納付要件を満たしていない」というケース。これは、主に国民年金被保険者——学生や自営業者、無職、フリーター、短時間労働者など、厚生年金に加入していない者が、自身で国民年金に加入し保険料を納付しなければならない期間に未納があると、実際に障害状態であっても障害年金の請求ができない(不支給決定となる)場合があり、その時点でどう足掻いてもなすすべはない。

 

具体的には、障害の原因となる傷病の初診日(初めて医療機関を受診した日)以前の被保険者期間で、3分の2以上の納付または免除があるか、もしくは直近1年間で未納がないか・・という要件を満たしていないと、どれほど重度の障害状態にあっても障害年金を請求する権利はない。

こればかりは「年金保険」というだけあって、不測の事態に備えた制度であることを考慮すれば当然なのだが、学生時代や収入が乏しい時期などついつい未納を重ねてしまう・・なんてことは誰にでもあるわけで、そんな時は是非とも「免除制度」や「納付猶予制度」を利用してもらいたいのである。

 

ちなみに、趣旨を度外視した極論をいうと、65歳以降に受給する老齢年金に関しては、いずれ自分がその年齢に達することは分かっているのだから、(自分のことだけを考えるならば)若いうちに積み立てておけば年金保険料は未納でもどうにかなる。

だが、障害年金に関しては「いつ自分が障害状態になるのか」など誰にも分からない——それこそ、今日事故に遭うかもしれないし、先日の健康診断で重大な病気が発覚するかもしれない。だからこそ、働きたくても体の自由が利かなくなった場合に備えて、障害年金というセーフティーネットが存在するのだ。

 

そんなわけで、わたしが障害年金の依頼を受ける際には、事前に傷病に関する様々なヒアリングを行うのだが、実際のところ「初診日」というのは依頼人らが思うほど簡単に決まるものではない。

「初診日って、この病気で初めて医療機関を受診した日でしょ?」

・・たしかにその通りなのだが、最終的に傷病名が確定した病院の前に、別の病院から転院している場合などは、転院前の病院を初めて訪れた日が初診日となるのだ。

 

過去の例だが、「心身症」と診断された患者からの依頼を受けた際、その初診日は実に10年前まで遡ることとなった。過敏性大腸炎や胃腸炎、片頭痛など複数の体調不良に見舞われた依頼人は、各々の症状に該当する専門医を訪ね、複数のクリニックを受診していた。

しかしながら、治療を続けたところで症状の改善はみられず、そのうち徐々にメンタルを病んでいった。そして、最終的に近所の心療内科を受診した際に「心身症」という傷病名を告げられたのだ。

 

なお、心療内科へたどり着くまでの流れについて、過去に通院していた医療機関にて受診状況や診断書を発行してもらったところ、どこの病院も互いの連携がとれており、何一つ矛盾がないことが証明された。

しかも、体調を崩してからは仕事も休みがちになり、障害年金の相談を受けた時点では無職だった依頼人——心療内科が初診日ならば、納付要件はアウトだったのだ。

 

このように、本人が思っている「初診日」と実際のそれとは異なる場合がある。逆に、初診日の時点での納付要件をごまかすために嘘をついたとしても、診断書等に「〇〇医院からの紹介により・・」や「××病院にて治療するも・・」など、以前通院していた記録があればその時点で初診日は覆ることとなる。

また、医師が診断書を作成する際はカルテから転記するため、問診を含む診察内容をそのまま書き写すので、嘘やごまかしは原則として通用しない。加えて、初診日当日に過去の未納分を追納したとしても、もはや手遅れ。

しつこいようだが、納付の義務を果たしてきた者のみが、障害年金を受給する権利を有するのである。

 

——長々と書いてきたが、障害年金の請求書類を作成・提出するまでには、このような長い道のりがある。しかも、先述の段階ではまだ書類作成にも及んでいないわけで、準備を進める途中で「納付要件がアウトだった・・」という残念な経験も、幾度となく味わってきた。

そんな、変幻自在で姿の見えない「障害年金の請求」は、長期間にわたりタフな精神状態を必要とする案件であり、なにより依頼人の人生を金銭的にサポートできる唯一の手段を、どうにかして繋いであげたい・・と祈る気持ちで毎日を過ごすため、わたしにとっては実働以上に心労を伴う業務なのである。

 

じゃあなぜ、そのような重い仕事を引き受けるのか・・と聞かれれば、それは「やりがい」に他ならない。社労士としての責務もあるが、それ以上に「わたしがやるべき仕事」という自負を持って取り組むことで、誰かの役に立ててよかった・・というやりがいを感じるのだろう。

 

そして今日、自分史上最高の出来栄えとなる申立書を完成させたわたしは、半年におよぶ旅を終えた。

 

今回の経験は、わたしにとって意味のあるものだったし、社労士として忘れかけていた職責の重要性・・いや、知識の涵養の重要性について思い出させてくれるものでもあった。

あとは審査が滞りなく進み、然るべき決定がなされることを祈るのみ——。

 

 

最後に、このような貴重な経験とチャンスを与えてくれた依頼人に、心より感謝を述べたい。

 

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