特殊代謝機能

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まるで赤ちゃんのような・・いや、それはさすがにおこがましいか。まるでアンパンのようにふっくらと膨らんだ足首を眺めながら、わたしはただ呆然と立ち尽くしていた。

(見たこともない、こんな自分の足は・・)

——そう、見事に浮腫んでいるのである。

 

毎日目にする自分の足というものが、あたかも他人のそれであるかのような違和感に、思わず目が釘付けになる。これは一体、誰の足首なんだ——?

シワ一つない見事な膨らみは、女性のふくよかなバストをも彷彿とさせるフォルム。というか、足というのはこんなにも丸く膨らむものなのか?例えるならば骨折をしたときくらい・・いや、あれよりもさらに腫れているではないか。

 

二週間におよぶアメリカでの食トレを終えたわたしは、見事に増量していた。そりゃ、あれほど躊躇なく食べた上にまったく動かない生活を送っていれば、体重は増えるに決まっている。

だがこうなったことに後悔はない。なぜなら、今回渡米した目的の一つに「UFOを目撃する」という大それた挑戦があったからだ。昼夜問わず暇があれば空を見上げ「正しいUFOの見方」を実践し、いつアブダクションされてもいいように心の準備もできていた。

 

——とはいえ、興味本位で「UFOが見たい!」などと思っているような下劣な人間の前に、彼ら彼女らが現れるはずもない。その結果、空を仰ぎ続けたわたしの首が鍛えられただけで、皆が待ち望むような成果は得られなかったのだが、ジッとしていた代償として10キロもの体重を与えられたのである。

(マズい・・実際の数字以上に、この腫れ上がった足はマズいぞ)

パンパンに膨らんだアンパンの中身は、紛れもなく水。そして、これを抜くには汗や尿などで排泄する以外に方法はない。さらに運動嫌いのわたしは、体を動かすこと以外で水分の排出を促さなければならない——よし、寝るか。

 

これは紛れもない実体験なのだが、ニンゲンというのはしっかり寝ると体重が落ちる生き物である。もちろん、運動することで汗をかき代謝を促すというのも有効な方法ではあるが、それでは疲れてしまう。そのため、少しでも楽をして水分を排出するには、「寝る」以外に方法はないのだ。

なお、そもそも短時間睡眠のわたしが長時間眠り続けるには、薬のチカラを利用しなければならない。よって、常備している睡眠薬を服用するとベッドに寝転んだ。

(いざとなったら半身浴で水抜きをすればいい。だがまずは、己が持つ代謝機能をフル活用して、どこまで水分を排出できるかトライしなければならない)

 

こうして、目が覚めては薬のチカラで寝る・・という、決して推奨できない方法で長時間睡眠を確保したわたしは、見事に8キロの減量に成功した

もちろん、尿による排泄が最も効果的なわけで、日頃は一日一回程度しか尿意を催さないわたしが、起きるたびにせっせとトイレを往復する・・という、自分的にも新鮮な行為を体験できたのも今となってはいい思い出。

ちなみに、ここからの2キロは運動によって落とさなければならず、寝ること以上にハードルの高い苦行が待っているのだ——あぁ、考えただけで苦痛である。

 

 

こうして、カネをかけることなく己の代謝機能のみで、8キロもの溜め込んだ水分を排出したわたしは、腱や血管に加えて皮膚の細かなシワまでもがハッキリと確認できる状態に戻った足首から先を眺めながら、あと2キロの壁に恐れ戦くのであった。

 

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