もうそろそろこの話題が出る頃だろう——というわけで、当然ながらわたしは順調に体重を増やしつつある。そもそも海外に行って痩せることなどありえないが、殊にアメリカという国は明らかに太らされるわけで、ついに短パンのウエスト部分を直に見ることができなくなった。
誤解のないように説明しておくが、「短パンのウエスト部分が見えない」というのは、あまりに腹が出ているのでその醜さを直視できない・・という意味ではない。内臓に詰まった食糧のせいで腹が前後左右にせり出した結果、物理的にパンツよりも腹の直径が上回った・・ということだ。
信じられないかもしれないが、下を向いても見えるのは腹周りの肉のみで、その下に何があるのかは、当事者であるわたしにも分からないのである。
とはいえ、今回はやや警戒しながらの飲食を心掛けていたため、昨年ほどの・・まるで臨月を迎えたドラム缶のような腹にはなっていないことに、密かに安堵していたのだ。
(ニンゲン、我慢すればなんだってできるのだ)
たしかに食べれば腹は膨れる。そして、摂り過ぎたカロリーを消費できないまま次の食事を迎えることで、体内にどんどん食べ物の残骸が蓄積していく。
しかも、「せっかくこっちへ来てるのだから・・」と気を使ってくれる友人らのもてなしに、躊躇なく全力で乗り続けたわたしは、出されたものを完食するのは当然ながら、「冷蔵庫に入れておくね」「食べたかったら食べてね」と言われた食材を、深夜に一人でせっせとつまみ食いしていたのだ。
そして痕跡を残すことなく、平らげた皿やフライパンを綺麗に洗って、まるで何もなかったかのように振舞ってきたわけで——。
(・・いや、大丈夫だ。今回はそこまでひどくはないはず)
一抹の不安が過るも、さすがに昨年ほどの暴飲暴食っぷりではないと判断したわたしは、上機嫌でアメリカ生活を満喫したのである。
そして今日、なんとなく——本当になんとなく、ただ視界の隅に体重計が見えたので、「久々に乗ってみよう」という気になったのだ。いま思えば、乗らない方がよかったのかもしれない。とはいえ、それでは現実から目を背けるだけなので、やはり乗ってよかったのだ・・と言い聞かせるしかない。
なぜなら、たった一週間でおよそ20ポンド(9キロ)も体重が増えていたのだ。
(ウソだろ?!きゅ、9キロも増えるなんて・・ありえない!!!)
そりゃそうだ、一週間で9キロ増量・・なんていう荒技は、そう簡単に達成できるものではない。しかも、大量に食べたといえば食べたかもしれないが、とはいえそれらが全部血となり肉となるとは思えない。
だが目の前の数字は紛れもない事実であり、何度測り直しても表示される重さは変わらない——マズいぞ。
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——いや、これでいいのだ。アメリカへ二週間滞在して体重が増えないわけがない。そもそも、スーパーなどで「これ美味そうだな」と思うケーキやクッキー、果物、生パンなどは、どれもサイズがデカいもしくは複数を抱き合わせて売っている。そのため、「ちょっとだけ味見したい・・」というような舐めた考えは、ある意味許されざる行為なのだ。
加えて、買ったからには全部食べ切らなければならない。なぜなら、わたしの好みで購入した商品であり、それらについて責任を持って平らげるのがマナーだからだ。
・・このように、厳格な胃袋トレーニングを強制されながらも徐々に体がアメリカナイズドされていくわけで、いつの間にか満腹の状態が「通常」となり、そこへさらに食糧を詰め込み、限界を超えた満腹が「新たな通常」となる——この繰り返しで、胃袋のみならず内臓器官がタフに強化されていくのだ。
その結果、トレーニングの成果は腹周りの太さと体重に現れ、信じられないほどのボリュームアップを実現してくれるのである。
(よ、よし・・トレーニングは成功しているぞ!)
——こうやって変換しなければ平常心を保つのが不可能なくらい、衝撃を受けたわたしなのであった。
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