想像以上に根深かかった、砂糖の呪い。

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「明日からやる」という言葉ほど当てにならないものはない。明日から・・ということは、要するに”今日はやらない”を意味するからだ。

だからこそ、何かをやると決めたらその瞬間から始めなければならない。「これが最後」とか「今日まではOK」はダメ。そういう”自分に都合のいい設定”をする輩など、これっぽっちも信用できないわけで。

 

——そんな後悔にも似た苦悩を抱えながらも、わたしはバナナパイとアップルパイとレモンタルトを貪り食うのであった。

 

 

事の発端は先週の土曜日に起きた。あまりに甘いものばかり食べ過ぎているわたしは、糖尿病などの生活習慣病に罹患するリスクを懸念して、「砂糖を断つこと」を決めたのだ。

同時に、小麦粉でできた菓子・・つまりケーキやクッキーなどからも手を引くことを誓ったのだが、この英断はいろいろな事情により本日まで延期されてきた。

 

まずは、決断を下した土曜日の当日。スーパーのレジ前に並べられたセールス品の中に、ホールのアップルパイが40%引きのシールを貼られた状態で置かれており、この千載一遇のチャンスを逃すまい・・と、わたしは誓いを立てたその日にさっそく破ったのである。

(そうだ、明日からにしよう)

 

そして翌日となる日曜日。気持ちの弱いわたしは「甘いものを断つ」と決めたことを宣言することで、強制的に実行する流れにもっていこうと考えた。そこで、友人にこの志を語ったところ、

「そんな話を聞いた後でわるいんだけど、ここの芋羊羹がめちゃくちゃ美味しいから、ぜひ食べてもらいたいんだよね」

といって、品川駅構内にある”舟和”にて芋羊羹を買い与えてくれたのだ。

舟和といえば、明治35年創業の和菓子の老舗。だが、あんこ嫌いなわたしが和菓子を食べる機会はほとんどなく、殊に小豆の塊である羊羹など「敵」という認識。そのため、芋羊羹に対して興味も関心もなかった。

とはいえ、友人がわざわざ買い与えてくれるとなれば話は別だ。こうなったら、今日までは甘いものを解禁して、明日から実行に移すしかない——ということで、芋羊羹の前に抹茶のジェラートをダブルで、そしてミルクのジェラートもダブルで注文してしまったのだ。

(悔いのない今日を過ごそう)

 

いよいよ月曜日。今日から甘いものを断つわけだが、所用で近所をぶらついていたわたしは、爽やかな青空にそそのかされてついついメゾンカイザーへ入ってしまった。

ここのおすすめは、抹茶が練り込まれたデリスブラン(ホワイトチョコ入りのパン)と、ションオポム(アップルパイ)、そしてサツマイモのパンである。ほかにも、ダイアモンドと呼ばれるバタークッキーとアールグレイのサブレも必須。

というわけで、天気がいいのはわたしのせいではないし、むしろ自然現象を味方につけるなど最強な証である。よって、この青空に免じて決断を猶予することにしたのである。

(天気を左右できる人間などいないんだから、仕方がない)

 

こうして迎えた火曜日。仕事で石神井公園周辺を散策していたところ、地域密着型のカフェとパティスリーを発見し、当然ながらそのチャンスを逃すまいと、ケーキとドーナツを購入したのである。

(人生初となる石神井公園来訪なわけで、そんなめでたい機会に水を差すようなことはできまい。己の決断なんかよりも、目の前の小さな幸せや喜びを大切にできる人間でありたい)

 

なんだかんだで水曜日。荻窪駅近くに、わたしの好みかつ超穴場なパン店がある。ここの前を素通りするには、店が休業している以外に方法はないくらい、毎度ふらりと吸い寄せられるのであった。

(荻窪なんてめったに来ないし、このバターが丸ごと入ったフランスパンはここでしか買えない。おまけに、そのレモンパウンドケーキも新商品に違いない。今日を逃したら次はいつになるか分からない・・よし、悔いのない今を生きよう)

 

気が付けばもう木曜日。友人のサロンを訪れるのに、手土産としてなにか食べ物を・・と思い、アトレ目黒店内を物色していたところ、アップルパイ専門店「マミーズ・アン・スリール」のポップアップストアが目に留まった。

ノーマルなアップルパイのみならず、ラムレーズンとカスタードクリームの入った「大人のアップルパイ」、ボリュームたっぷりなバナナパイ、山盛りのメレンゲが載ったレモンタルトパイ、そして季節限定のブルーベリーパイ。——これを買わずして、悔いのない今日など送れるはずもない。

(友人と喜びを分かち合うためにも、わたしも味見をしておこう)

 

 

今日はすなわち金曜日なわけで、「甘いものを断つ」と決めてからちょうど一週間が経つ。

そしてこの一週間のうち、一日たりとも決断を実行できた日はない。無論、固い意志を持って遂行するべく努力はしたが、何らかの事情によりことごとく阻止されてきたのだ。

 

だからこそ、今日こそは「砂糖を断つ」と宣言しようじゃないか。そして、午前中である今のところは、辛うじて実現できていることを報告しておこう。

 

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