シートベルト不敗神話の友人から学んだこと

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類は友を呼ぶ・・ではないが、わたしの友人らは一風変わった輩が多い。その中でも特にイレギュラーな人物がいて、彼は15歳くらいから車に乗り続けている。

まぁ、15歳で車の運転をしている時点で「普通じゃない」ことは伝わるだろうが、突っ込むべきはそこではない。なんとその友人は、生まれてこの方シートベルトを締めたことがないのである。

 

さすがに教習所では大人しく従っていただろうが、公道においてシートベルトを着用する習慣のない友人は、いついかなる時でも”フリーダム”を貫いてきた・・などと聞くと、

「めったに車に乗らない人なら、あり得るんじゃない?」

と、ひねくれた横槍を入れる者もいるだろう。だが、残念ながらその考えは甘い。今でこそ引退してしまったが、彼は長距離トラックドライバーとしてのキャリアが10年以上ある。もちろん、トラック運転時も常にシートベルトは開放されており、胸部のフリーダムを守り続けたのは言うまでもない。

 

ちなみに、座席ベルトの着用義務は道路交通法第71条の3で規定されており、シートベルトを外しての運転は当然ながら法律違反となる。だからといって、「そんなくだらない自慢をするのが、カッコいいとでも思ってるのか?」なんて冷たいことは言わないでもらいたい。

驚くべきは、ほぼ毎日車の運転をしているにもかかわらず、しかも幾度となく飲酒検問等で止められているにもかかわらず・・言い方を変えると、幾度となく警察に呼び止められているにもかかわらず、ただの一度も「シートベルト未着用で捕まったことがない」という事実だ。

 

実際にわたしも、友人の助手席で奇妙な体験をした。

足立区某所を走行中に、前方の信号が赤に変わったのでスピードを落としつつ停車の準備に入ったところ、友人は前を見つめながら小声でこう言ったのだ。

「変に慌てたりしないでください、いつもどおり普通にしてて」

突然の”静かな警告”に対して何のことだか分からずにいると、さらにこう続けた。

「横に警察いるんで」

え・・?と思いながらも、何食わぬ顔で運転席の向こう側を見ると、たしかにそこにはパトカーがいた。しかも、向こうも赤信号で止まるべく我々と同じスピードで並走しているではないか。

おまけに、助手席の警察官とわたしは目が合ってしまった。それだけではない、警察官は運転席の友人のことを、舐めるようにジロジロと睨みつけていたのだ。

 

(・・これはさすがに、終わったな)

あぁ、友人が誇るシートベルト無敗神話も、ついに終わりを告げるときがきたのか——と、わたしのせいではないにせよ、タイミング悪く同乗していることに若干の罪悪感を抱いていたところ、車がゆっくりと動き出した。そう、信号が青に変わったのだ。

(・・・・・え??)

正面を向いたまま右側の視野に神経を集中させたところ、我々よりも少し前を走るパトカーが確認できた。無論、警察官もこちらのことなど微塵も気にする様子はなく、そのままどんどん離れていったのだ。

——なるほど。こうして不敗神話は続いていくのか。

 

とはいえ、間違いなくあの警察官はシートベルト未着用の友人を見ていた。ということは、正確に表現するならば「視界には入っていたが、認識はできていなかった」ということなのか。

いずれにせよ、あまりに正々堂々としていると、あたかもそれが正しい姿に見えるのだろう。逆に、妙ににオドオドしたり急にあたふたしたりすると、違和感に近い不自然さから不正を見抜かれてしまうのだ。

 

(なにごとも、しれっと済ませればバレない・・ってことか)

 

 

そして今、わたしは都内某所にある星野珈琲店にいる。しかも、店へ入る直前に近所のパン屋で、美味そうなクッキーやケーキをたっぷり買ってしまった後である。

あわよくば、陰でこっそりレモンパウンドケーキとレーズンバタークッキーを食べてやろう・・と目論んでいたのだが、案内された席があまりに人目に晒される場所だったため、「陰でこっそり」は不可能となった。

だからといって、要冷蔵の商品を食べずに持ち帰る・・というのは受け入れがたい。どうにかして口に入れられないだろうか——。

 

その時わたしは、”例の友人”を思い浮かべていた。彼ならきっと、しれっと何事もなかったかのように、この場で堂々とレモンパウンドケーキを貪り食うだろう。なに、大したことではない。このわたしにだってできるはず。

 

そんなことを思いながらも、店員が厨房へ消えたのを確認するや否や、瞬殺で個包装を破り捨てるとパウンドケーキにかぶりついた。

——こうなったら味わう暇などない。注意される前に、口の中へ押し込まなければ!!

 

 

これが”大物と小物の違い”ってやつだろう。所詮、わたしは小物なのだ。どんなに偉ぶろうが虚勢を張ろうが、しがない小市民なのである。

(・・にしても、どうせ同じ個数を食べるのなら、堂々と味わってから怒られるなり何なりしたほうが、美味しく終わらせることができたんじゃなかろうか)

 

次回こそ、友人を見習って堂々と食べることを誓うのであった。

 

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