地球上で、自発的に「火」を扱うことができるのはヒトだけである。そして火は便利である一方、恐怖をもたらす存在・・すなわち、創造と破壊という両極端な側面を持ち合わせるため、文明の発展に寄与しつつもわれわれは畏怖の念を抱き続けるわけだ。
ちなみに、人類が火を利用するようになったのは約180~80万年前で、火山の噴火や雷による発火により「火」を知った・・と推測される。そんな「火」の影響力は絶大で、たとえば動物から身を守ったり、暗い夜を照らしたり、はたまた寒い夜には身体を温めたり、食べ物を焼くことで美味しさを与えてくれたりと、ヒトが生きていく上でなくてはならない存在となった。そのうち、自ら火を生み出すべく「火起こし」の技術を身に着け、生活に取り入れたのが北京原人といわれているわけだ(東京ガス/「火」と人間の歴史より)。
余談だが、わたしの前世はハエや蚊のような飛翔性昆虫であった可能性が高い。虫よけ(実際のところ効果はないらしいが)の超音波に引っ掛かったり、この世の生き物の中で蜘蛛が最も苦手であったりと、まるでハエや蚊のような特徴があるのだ。
そんなわたしは「火」が怖い。そのためガスコンロを使うことができず、結果的に”料理”という文化から遠ざかることとなった。だが文明の利器により、火を使わずして食材を加熱する術・・そう、電子レンジの台頭によって食事のクオリティが格段に上がったのだ。
これさえあれば、水をお湯に変えることができる。よって、コップに水とスープの粉末を入れてレンチンすれば、熱々スープの出来上がり・・というわけで、わたしの料理スキルが一気に上がることとなった。
そんなわたしの、最近のお気に入り食材は「キノコ」である。
野菜や果物を買って来ても、それらを洗うことなく丸ごと齧りつくのがわたし流だが、時には水洗いが必要だったり皮をむかなければならなかったり、ひと手間かかる食材を扱うこともあるわけで——。だが、キノコならばそれらの処置は不要。
なんせキノコは、衛生的な環境で無農薬栽培されたものが市販されているため、そのままでも十分きれいな状態だからだ。しかも、水洗いすることで風味や食感を損なう恐れがあるため、極力水分を付着させないほうがキノコのためでもある。
要するに、キノコならば水洗いの必要も包丁を入れることもなく、レンジへぶち込むだけで美味しい料理が完成する・・というわけだ。
おまけにキノコは、ビタミンDやビタミンB群などのビタミン類に加えて、カリウムやリンといったミネラル類も豊富に含まれており、食物繊維が多いことから満腹感を得やすいメリットがある。
さらに、β-グルカンという食物繊維の一種を含んでいることから、免疫力を高め、ウイルスや細菌に対する抵抗力の増進も期待されている。そのため、抗がん作用についての研究も進んでおり、まさに”自然が生んだ奇跡の食材”なのだ。
・・まぁ、栄養素や免疫に関しては後付けの理由なのでどうでもいいが、個人的には「手間がかからない」「野菜よりも満腹感を得やすい」という点が、キノコの圧倒的なポテンシャルだと思っている。
なんだかんだで、キノコの出現により料理のレパートリーが増えたわけだが、それでもまだ「食材をそのまま食べるスタンス」に変化がないわたしは、両手一杯のぶなしめじとジャガイモ6個、その隙間へモヤシ1袋を詰め込んで、レンチンすること15分——全体的に茶色い料理を完成させた。
そして仕上げに、わが家にある唯一の調味料である塩(15年前に購入)を振りかけると、耐熱ボウルを抱えながら茶色い料理を貪り食うのであった。
正直なところ、ものすごく美味いのか?と問われれば「・・ノーコメント」だが、なんといっても満足度が高いのが特筆すべき点である。これまではジャガイモやサツマイモ、ニンジン、ブロッコリーのみで胃袋を満たしてきたが、今後は、ここへキノコが加わることで野菜(イモ類含む)とは異なる食感と舌触り、そして豊富な食物繊維による満腹の達成という、キノコならではの持ち味がプラスされるのだ。
おまけに、水洗いも包丁も不要——最高じゃあないか。
*
こうして、最先端の科学技術である電子レンジを駆使しつつも、食材に一切手を加えない・・という原始的なやり方で、わたしの料理は着実に進化するのであった。
コメントを残す