恋愛談話

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わが家にはテレビがないため、昨夜の番組について盛り上がる友人らの会話に加われないかのように、漫画やアニメを見ない人からするとまるで意味不明な話になってしまうのだが、少年ジャンプで連載され、TBS系列で放送もされている「呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)」という人気漫画&アニメがあり、わたしはその作品が好きである。

 

ちなみに「好き」という感情は非常に複雑な意味を持つ。とある友人から「呪術廻戦の登場人物で、誰が好きか?」と聞かれた際に、わたしは迷わず

「宿儺(すくな)」

と答えた。宿儺、すなわち"両面宿儺(りょうめんすくな)"と呼ばれるその男は、千年以上前にこの世を去ったにもかかわらず、現世を脅かすほどの影響力と存在感を放つ"呪いの王"である。

その圧倒的なポテンシャルと呪術センスは、現代最強と謳われる天才呪術師であっても、まったくといっていいほど歯が立たないレベル。なんせ、一人の体に目が四つ口が二つ、そして手が四本生えているのだから、呪詞を詠唱したり掌印を結んだりしながら体術による攻撃も可能なわけで、とてつもなく強い上に一人二役をこなしてしまったら、そりゃ強いに決まっている。

 

・・すると友人が、「へぇ!意外。てっきり夏油が好きかと思った」と、目を見開きながら驚いた。——なるほど、そっちの"好き"か。

つまり友人は、交際するならば誰か?という意図で尋ねたのだ。だがわたしは、単純に「好きなキャラクター」を答えたのである。ちなみに、もしも付き合うならば夏油傑(げとうすぐる)がいいので、友人の予想は見事に当たっている。

 

こうなると、

「(一番好きなキャラクターである)宿儺と付き合いたいとは思わないの?」

という疑問が浮上するのだが、これは不思議なことに「付き合いたいとは思わない」のである。

漢らしくて能力も高い宿儺と、なぜ付き合いたくないのだろうか——。その理由を自分なりに分析した結果、宿儺を好きな理由というのが「わたしが宿儺になりたいからだ」ということが判明した。

 

交際するということは、これすなわち「自分の隣りを歩かせた時に、誰もが羨むイケメンで、ファッションセンスも抜群で、眼福に値する見栄えのあるオトコ」を選ぶということ。どうせ相手の顔しか見ないのだから、少なくともわたしにとってのイケメンであってほしいわけで、自分調べの過去統計からも、わたしの顔とは正反対のタイプを好む傾向にある。

そして前出の夏油傑について、ロン毛で長身、口数は少なく正義と調和を好む性格、おまけに塩顔男子の代表格のような顔面であることから、ドンピシャでわたし好みのオトコなのだ。よって、交際するならば夏油一択である。

 

対する宿儺は、見た目云々を抜きにして「彼自身がオンナと付き合うタイプではない」という、身も蓋もない根本的な問題点が挙げられる。そもそも"呪いの王"と畏怖されるほど、邪悪で恐ろしい存在の宿儺が、誰かを愛し慈しむことなどありえない。いや、あってはならないのだ。

そしてわたしは、そんな暴君・宿儺を彼氏にしたいとは思わない。むしろ「わたしが宿儺になってみたい」と考えるようになったのである。なんせわたしが宿儺になれれば、無条件で目が四つになる。そうすれば、網膜の薄さに怯えてきたこのわたしにも、確実に明るい未来が約束されるわけで——。

 

そしてこの贅沢は、わたし自身が手に入れなければならないものであり、自分の彼氏に目が四つあったところで、喜びも幸せも感じられない。

つまり、見た目が高スペックなオトコは彼氏候補となりうるが、ポテンシャルが高スペックのオトコは、彼氏ではなく「わたしが乗っ取りたい」と思うのか——!

 

この年になるまで自分の恋愛観など顧みたこともなかったが、わたしが思う「いいオトコ」は、どうやら二種類存在する模様。

まず一つは、見た目が良ければ目の保養要員として近くに置いておきたいので、これすなわち「彼氏」に選別される。一方、圧倒的な強さや能力を秘めたオトコへの憧れは、彼氏のソレとは異なり自分のものにしたい・・すなわち自分の中に取り込みたいという欲望から、「非彼氏」からの「是自分」に分類されるのだ。

 

要するに、「わたしにはオトコの好みが二種類ある」ということを、呪術廻戦を通じて初めて認識したのである。

 

 

・・などという、二次元世界での出来事を現実的な恋愛観に当てはめるなど、決してやってはならない思考パターンを真剣に掘り下げたわたしに、明るい未来など訪れるはずもない。

 

サムネイル by 希鳳

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