要冷凍とは書いていない食品がある。ただし、
「解凍後はすぐにお召し上がりください」
と書かれている。
解凍するつもりはないが、冷凍庫のない我が家では勝手に解凍されるわけで、それでもわずかな抵抗として製氷機の上で保管しておいた。
その名は「市田柿のフロマージュ」という、シャレた和菓子。
ミルフィーユのような層状の干し柿の間にクリームチーズが挟まっており、真空状態で個装されている。
それをすぐに食べずに製氷機へ放り込んでおいたのだが、ふとその存在を思い出し、慌てて開封したところだ。
凍っている部分はどこもなく、噛みごたえは「干し柿とチーズ」という、見たまんまの食べ物。しかし一口かじると咀嚼が止まった。
(カビの味がする・・・)
もしかすると干し柿特有の自然な風味が、カビっぽく感じただけかもしれない。ましてや製氷機で保管していたわけで、そんなところでカビが生えるとは思えない。
気を取り直して再びかじる。
(カビの味がする・・・)
カビの味以外にどう表現すればいいだろうか。カビっぽい味、というかカビのような味がする。正確には味ではなく風味というか、ニオイというか、舌で感じるというよりは嗅覚で感じるカビっぽさというか。
目視でカビは確認できない。というか、干し柿の表面は白く粉を吹いているため、カビではないにせよカビが生えていても区別できない。
自然の物、つまり果実などのカビならば食べてもどうにかなるだろう、と楽観的に捉えたわたしは、市田柿のフロマージュを一気に食べた。
やっぱり、カビの味がした。
*
製氷機には、市田柿のフロマージュの他に業務用アイスクリームが入っている。
これは購入した日に食べ切れなかったため、やむなく製氷機に突っ込んでおいたもの。
食べ切れなかったというより、途中でドロドロに溶けてきたため、食べる気が失せたというのが本当のところ。
フタを開けると当然ながら溶けている。だが、トロトロまではいかない。ストローで飲めば引っかかりながらも飲めるシェイク、という感じ。
とりあえずスプーンですくって食べてみる、いや、舐めてみる。溶けている分、かなり甘いアイスの味がする。
そして不思議なことに、アイスの表面は冷たくない。むしろ生温かさを感じる。なぜ冷蔵庫(製氷機の上)に入っていたのに生温かいのか分からない。
箱の底のほうのアイスは、表面よりは冷たく固形っぽさを保っている。とはいえ、通常のアイスからすれば比べものにならないほどの液体感だが。
そしてしばらく舐めるうちにひらめいた。
ーーこういう食べ方をするから美味しくないんだ。バーニャ・カウダのようにディップとして使えばいい!
半溶けで甘すぎるアイスクリーム。舐めるにも飲むにも苦しい。であれば、他の食べ物に塗りつける感じで食べればちょうどいいはず。
わたしは手当たり次第に固形物を浸し、溶けたアイスとのマッチングを試した。その結果、大正解は2つあった。
一つはバナナ。これはもうどう転んでも失敗はしないだろう。バナナを溶けたアイスに浸しながら食べる。もちろん美味い。
贅沢を言えば、バナナが冷たいほうがいい。なぜならアイスの表面がぬるいから。
そしてもう一つは「とうもろこし」だ。
これは意外といえば意外。だが甘みの強いとうもろこしがバニラアイスと合わないはずもなく、”冷静コーンスープのデザート”を彷彿とさせる。
ちなみにとうもろこしは、温かいほうがアイスとマッチして美味い。
冷たいとうもろこしでももちろん問題はないが、ホカホカのとうもろこしの粒をドロドロに溶けたアイスクリームの海にばらまき、それを大きめのスプーンですくって食べる幸せは筆舌に尽くしがたい。
*
ということで、アイスが溶けたらぜひ「ディップ」として最後まで使用してほしい。
複数の友人に「アイスが溶けたらどうするか」を調査したところ、
「ぬるかったら捨てるけど、とりあえず飲む」
という意見で一致した。
そう、アイスクリームはぬるくなったら捨てられる運命にある。しかも環境によっては必要以上に寿命が縮まる恐れもある。
そんなアイスクリームの救済方法として、「ディップ」という手段があることを念頭に置き、安心してゆっくりとアイスクリームを堪能してもらいたい。
サムネイル by 希鳳
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