我が家には二種類の寝具が装備されている。一つは羽根布団で、もう一つはタオルケット。そしてこの時期、いずれの寝具も使い勝手が悪く、なんとも寝覚めの悪い日々を繰り替えしている——そう、羽根布団では暑いし、かといってタオルケットでは寒すぎるのだ。
しかも、頸椎ヘルニアの影響でベッドよりもソファのほうが快適な睡眠を得られることを発見したわたしは、連日連夜ソファにて就寝しているのだが、当然ながら”掛布団のチョイス”に苦戦するのは想像に難くないだろう。
いかんせん、二分の一の確率で暑いか寒いかを選ばなければならないわけで、それ以外の選択肢はない。よって、最初から「暑い」を選んだらその時点でゲームオーバーとなるため、強制的に「寒い」すなわち「タオルケット」を選ぶしかないのである。
生地は薄いが、夏場の”エアコン直撃”を華麗に交わすタオルケットは優秀な逸材。暑くもなく寒くもなくちょうどいい温度を保ってくれるうえに、コットンの肌触りが気持ちがいい——そんな、夏場の救世主ともいえるタオルケットだが、冬場においてはなんの役にも立たない。
それこそ、開始5分くらいは「なんとなく温かい」という効果をもたらすが、その後はみるみる冷えていくわけで・・おっと、なぜ「室内」しかもリビングに置かれたソファであるにもかかわらず、みるみる冷えていくのかというと、我が家が欠陥住宅だからである。
モダンなデザインの象徴ともいえるコンクリートの打ちっぱなしに、天井まで伸びる高いガラス窓・・という、無駄に洒落た建材により構成されている我が家は、保温に劣り吸湿性に欠ける。そのため、冬場などシベリアを彷彿とさせる過酷な環境が形成されるのだ。
このような状況下で「安眠」など、願うだけ無駄なのはわかっている。だが、せめて1時間でいいから快適な睡眠を体験したい——と願うわたしは、ない頭をひねって考えた。
無論、「厚着をする」という手もあるが、そうなると全身を圧迫されて寝覚めが悪い。寝具たるもの”上下ジャージ”がユニフォームであり、ジャケットを羽織って寝るなど愚の骨頂。となるとやはり、掛布団をどうにかしなければならない。
とはいえ、先にも述べたとおり我が家に寝具は二種類しか存在しない。この両極端な二種類以外で、他に掛布団代わりになるものはないだろうか。
(・・あ、あった)
そもそも掛布団代わりになるようなものがあれば、最初からそれに頼っているだろう。にもかかわらず、ここへ来るまでなんら手を打つことができなかった理由は、「ソレ」が寝具代わりになると思ってもみなかったからだ。
しかも、どこかから引っ張り出してくるのではなく、手を伸ばせば届く位置に引っ掛けてあるわけで、灯台下暗しとはまさにこのこと。
というわけで、役立たずのタオルケットの助っ人に指名されたのは・・・シャクティー・マットだった。
拷問器具からヒントを得て作られたシャクティー・マットは、インド五千年の歴史を誇る代表的な呪具——いや、ちょっと嘘である。だが、拷問器具といわれても否定できないほど、無数の強固なスパイクによって表面を武装したシャクティー・マットは、通常ならば床やベッドに敷いてその上に寝転ぶことで使用する。
しかしながら、その形状は「細身の掛布団」と言われても納得できるフォルムおよび手触りのため、体の上に掛けて・・というか乗せておけば、案外「寝具」の役割を果たすかもしれない。
そこでわたしは、攻撃的なトゲトゲを天井に向けた状態で、マットの裏面を体の上にセットしてみた——うん、なんだこのちょうどいい重さは!!!
なんと、シャクティー・マットの絶妙な重量が、得も言われぬホールド感を提供してくれるではないか。そういえば、広告か何かで見たことがある。「少し重さがあるほうが、ヒトは安眠できるのだ」というような商品を。
(なるほど・・このなんともいえない安心感こそが、重量のもたらすメリットなのか)
そんな「ちょっとした驚き」を胸に、わたしは静かに目を閉じたのである。
*
(・・・あ、暑い)
およそ1時間後、わたしは全身の火照りにより目を覚ました。さすがに汗はかいていないにせよ、上半身はポカポカで半袖になりたいくらい。
そしてこれは・・言うまでもなく、シャクティー・マットの功罪である。ちょうどいい重さを与えつつ、わたしの体にピタリと寄り添う形で快眠を与えてくれたシャクティー・マットは、結果として必要以上の体温を保ってくれたのだ。
わたしは悩んだ。たしかに今は暑い。だが、シャクティー・マットを剥がせばタオルケット一枚となり、当然ながら寒すぎる。とはいえ、このままでは暑くて寝られない。かといって、意識を失ってからの調整は自分では不可能ゆえに、なにか策を練らなければならない。ならばいったい、どうするのが最善策なんだ——。
こうして、今夜も十分な睡眠時間を得られないまま、朝を迎えるのであった。




















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