どうしたって「罠」にハマる私は、新宿駅での乗り換えが恐ろしい

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埼京線の終点といえば新宿だが、山手線や中央線の乗り場と比べると渋谷寄りにホームがあるため、埼京線から山手線に乗り換える際には新南改札の前を通過しなければならない。そしてこれこそが、毎度引っかかる「罠」なのだ。

(今日こそは、絶対に真っすぐホームへ向かうぞ)

埼京線のホームからエスカレーターで上がったフロアには、ニュウマンという商業施設が展開されている。こういった"エキナカ"の施設はもはや珍しくはないが、新宿ニュウマンのたちが悪いのは、店舗のラインナップが素晴らしすぎるところにある。

 

前回、最南端のエスカレーターを使って二階へ上がったところ、通路脇に並ぶ店舗から食べ物による攻撃をくらったわたしは、まんまとその「罠」にハマってしまった。

まずは「米屋のおにぎり屋 菊田屋米穀店」がわたしの足を止めさせた。白米大好きなわたしにとって、おにぎりの店というのは"魔境"といえる。腹が減っていようがいまいが、とりあえず足を止めておにぎりを物色するのがルーティンとなっており、どれほど抗おうが無駄な抵抗で終わるのだ。

 

当然のごとく、気に入ったおにぎりを8個ほど購入したわたしは、道なりに歩を進めた結果「すし屋のはなれ、」にぶち当たってしまった。

ショーケースには見るからに美味そうな"寿司むすび"が陳列されており、さすがにスルーできないほどの神々しいラインナップである。サーモンむすび、かんぱちむすび、本マグロむすび、中トロ握り、すし屋の玉子焼きなどなど、2分前におにぎりをたくさん買ってしまったことを後悔するような、まさに垂涎モノの商品が圧倒的なチカラでわたしを引き寄せたのだ。

「これはさすがに不可抗力・・」というわけで、己の欲に忠実に寿司むすびを見繕うと、両手にレジ袋を提げて山手線ホームへと向かったのである。

 

だが悲劇はこれで終わらなかった。そこから数メートル先にある「ORIDELI THAI FOOD(オリデリタイフード)」の店先に並ぶ、ガパオやグリーンカレー、パッタイといった味覚を刺激する鮮やかなタイ料理に、思わず視線を奪われてしまったのだ。

両手には大量のおむすびがぶら下がっているが、タイ料理のようなスパイシーな食べ物があってもいいだろう・・いや、むしろそのくらいの"味変"を加えたほうが、より豊かな食卓となる。ならば、米や米麺であることは無視してガパオとパッタイをおかずに、そしておむすびを主食として成立させればいいじゃないか——。

 

こうしてわたしは、埼京線から山手線に乗り換える間に大量の食糧を購入させられる・・という「罠」にハマってしまったのだ。本来ならば、ただひたすら通路を進むだけで済むはずが、ホーム間の移動で数千円の出費を強いられるという、なんとも痛い思いを味わったのである。

この苦い経験を生かして、本日のわたしは最南端のエスカレーターではなく、一つ北寄りを利用することにした。

わざわざトラップが仕掛けてあるところを通るから、パブロフの犬のように条件反射で食べ物を購入してしまうのだ。だったらシンプルに危険地帯を避ければいいじゃないか・・と、意気揚々とエキナカフロアを進み始めたところ、右手に「PAUL(ポール)」が現れた。

 

ここはお気に入りのパン店の一つではあるが、今日はパンの気分ではないので大丈夫——と、安心して通過しようとした瞬間、視野の片隅に濃い緑色の物体が飛び込んできたのだ。そう、抹茶味のパンが売られていたのだ。

厳密には"パン"ではなく抹茶味のカヌレとスコーンだが、いずれにせよ抹茶なので買わないわけにはいかない。そしてショーケースの前に立ったところ、他にも興味深い商品が目に入ってしまい、結果的に大量のパン類を購入することとなった。

(またもや大失敗に終わった・・・)

 

中身としてはいい買い物ができたわけだが、本日の目標である「なにも買わない」を達成できなかったことに、若干の後悔とショックを覚えたわたしは、うつむき加減で山手線ホームを目指していた。あぁ・・結局のところ、どのルートを通っても「罠」にハマってしまうのか——。

そして、そろそろホームへ降りるエスカレーターかな・・と顔を上げたところ、そこにはなんと「サンドイッチハウス メルヘン」が両手を広げて待ち構えていたのだ。

 

(・・・もうダメだ、わたしは新宿駅で乗り換えをしてはいけない人種なんだ)

 

 

思い返せば、前回は米ばかりを買い漁り、今回はパンばかりを買い漁ったわけで、この誘い込み方もある種の「罠」なのだろう。

くれぐれも忠告しておくが、新宿駅の南側で乗り換えをする際には、是非とも気を引き締めて・・いや、財布のひもを引き締めて突破するよう心掛けてもらいたい。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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