私は断じて「反マスク派」ではない。この期に及んで、マスクをしようがしまいが大差ないとは思っているが、どちらでもいいからこそ「どうでもいい」というのが本音。
よって、36度を超える猛暑日に、汗だくになりながらもしっかりとマスクを着用する人々を見て、「洗脳って恐ろしいことだ」などとは思わない。
今まで通り、暑かろうが寒かろうがマスクをするのが義務であり常識であり、そのルールを守っているだけのことだからだ。
むしろ、律儀で真面目な日本人気質に拍手を送りたい。
そして最近の私はというと、厚生労働省からのお達しに従い、移動時などの屋外や、会話をしない単独行動の屋内においてはマスクを外している。
念のためアゴマスク状態でウロウロしてみたが、アゴ汗でマスクがぐっしょり濡れるので、この無意味な「フリ」はやめようと決心。昨日からノーマスクでウロウロすることにした。
道行く人々を観察すると、やはり大多数はマスクをしっかりと着用している。だが若い女性の中にはアゴマスクもチラホラ。
差別をして申し訳ないが、脂ぎった不潔なオッサンならば是非ともマスクで顔面を覆ってもらいたいが、可愛らしい女子はバンバン顔を出してほしいと願ったりもする。
しかし、少し前まではマスクを忘れた日には非国民呼ばわりされたが、今ではそのまなざしも穏やかなものに変化している。むしろ、羨ましい表情にも見える。
「いいなぁアンタは。アウトローはそれでもいいけど、オレらのような組織人にとっては、マスク着用が暗黙の義務なんだよ」
そんなセリフが聞こえてきそうな顔つきである。
とにかく、男性サラリーマンに限っては長袖長ズボンにマスクという、なぜ生命を脅かすような服装をしているのか理解に苦しむ。
仮に自宅から職場まで外気に触れることなく移動できるならば話は別。室内はどこも冷房がフル稼働のため、むしろ長袖でないと鳥肌が立つほど寒いからだ。
だが外気に触れる移動時間が長いにもかかわらず、あのような季節外れの格好をさせられるのは、冷静に考えると不可思議である。
なぜ真夏の炎天下に、長袖長ズボン、襟付きのシャツに革靴を着用せねばならないのか。
ちなみに本日の暑さは、野生のザリガニが田んぼで赤く茹ってしまう暑さである。人間だから茹で上がらないものの、体温調整機能を酷使する無謀な行為であることに違いはない。
にもかかわらず、「それがルールだから」という魔法の言葉で片付けられてしまう恐ろしさを、まじまじと感じるのであった。
さて、屋内はどうだろうか――。アイスコーヒーを買いに表参道のスターバックスへと入った。運悪く注文待ちの客が数人並んでいる。
マスクをしていない私は後ろめたさを感じるが、店内でくつろぐ客を見ると、全員マスクを外している。そりゃそうだ、コーヒーを飲むのにマスクは邪魔だから外すに決まっている。少しホッとしたところへ、店員がやって来た。
「お客様、店内ではマスク着用をお願いしています。もしお持ちでなければ差し上げますので・・・」
私は慌てて手で口を覆うと、「テイクアウトなのですぐに出ます」と伝えた。すると店員は申し訳なさそうにお辞儀をしてから、バックヤードに消えて行った。
(スタバは一瞬ならば許容されるが、イートインの際はマスクが必要、というわけか・・)
スタバを出てから私はパン屋へと向かった。表参道にはオシャレなパン屋がたくさんあるので、パン好きにとっては飽きない街である。ここでもとりあえずノーマスクで入店したところ、
「マスクを・・・」
と言われたので慌てて店を出た。すると背後から店員が、
「お客様、こちらのマスクをご利用ください!」
と言いながら使い捨てマスクを渡されたのだ。なんと用意のいい店だ。マスクがないから買い物ができない、という哀れな客を救うべく、貸出用のマスクを用意しているのだ。
久々に紙マスクを着けると、さっそく店内を物色した。たしかに、パンというのはハダカで並べられているので、会話でもすればツバが飛ぶ。
「わぁ、このパン美味しそう!」
「うるせぇ!黙ってさっさと買いやがれ!」
と、怒鳴りつけたい気持ちを抑えて、引きつった笑顔で客を監視しているのだろう。
しかしひと昔前までは、そんなことは考えもしなかった。実はこの件、コンビニのおでんの在り方と似ている。
冬になるとレジ横で美味そうな匂いを発するおでんだが、ホコリに加えて客や店員のツバがペッペと飛び散っているわけで、衛生的に問題がないはずがない。それでも思わず、
「玉子とちくわぶ!」
などと注文してしまい、あげくの果てには汁まで完食するのだから、どんな出汁が入っているのかわかったもんじゃない。
ちなみに、夏祭りのチョコバナナやお好み焼きも同じ状態といえる。
さらにツッコむと、ついさっきまで裏でタバコを吸っていたテキヤのおっさんは、手を洗うことなく鉄板の前に戻り、調子よくたこ焼きをひっくり返すわけだが、それでも誰もが喜んで「美味い美味い」とほおばるのが、祭りの醍醐味である。
ということは、もはやあのような光景は戻らない可能性がある。祭りの露店に限らず、百貨店などの物産展やパン屋など、顧客と食べ物の間に防御壁がない飲食物の売買は、マスク着用が今後も義務となるかもしれないからだ。
ホコリは別として、ツバに関してはマスクをすることでかなり抑えられるわけで、この習慣はこれからも続いていく可能性が高い。
売り物であるパンのためにはその方がいいが、こんなところにマスクの価値が根を張るとは、まぁなんというか、驚きつつも納得せざるをえないといったところか。
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