浜辺の住所

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とある浜辺の住所を調べた。しかし、住所の詳細にたどり着くことができなかった。

住所が知りたかったのは、神奈川県鎌倉市にある「材木座海岸」というところだ。相模湾に面しており、浜辺続きに西へ向かうと由比ガ浜に繋がっている。地図で確認すると、細い川を隔てて由比ガ浜と材木座海岸とに区切られている様子。

材木座海岸までの行き方は、JR鎌倉駅から徒歩15分。駅からバスも出ているので、フラッと遊びに行くには便利な場所である。

 

そんな材木座海岸に、顧問先が海の家をオープンさせるとあり、労働保険成立の手続きに追われているのだ。

 

送られてきた営業許諾契約書を見ると、「本物件所在地」の欄には「鎌倉市材木座海岸」とだけ記載されている。

通常、この手の契約書は賃貸借契約書の場合が多いので、住所は登記どおりに正確に記される。営業許可証なども、賃貸借契約書を元に審査を進めるため、当然ながら何丁目何番何号までしっかりと記載されている。

 

だが海岸というか浜地は、原則「国有地」である。そのせいもあってか(?)、細かく番地が振られることもない模様。とにかくざっくりと「鎌倉市材木座海岸」という住所で、材木座海岸はどーんと構えているのだ。

 

「あのぉ、何丁目以下がない場合、どうしたらいいですか?」

 

材木座海岸が立地する鎌倉市を管轄する、藤沢労働基準監督署へ確認をする。労働保険成立届を申請する際に、ざっくりとこの住所でいいのかどうか、私はソワソワしながら電話をかけた。

「材木座海岸だけでいいですよ。最近、海の家での労働者雇用のために、労働保険成立させる事業所さんが増えてますからね」

「あぁ、またか」といった慣れた口調で、担当者が説明してくれる。

 

もはや郵便番号がなくてもいいとのこと。海の家ということは、期間限定のビジネスのため、労働保険上は「単独有期事業」ということになる。つまり、営業許可が下りた範囲内の期間でしか営業できないため、8月末には店じまいとなるのだ。

よって、そこまで厳しく追及しないスタンスなのだろう。

 

一般的な企業が加入する労働保険は「継続事業」というカテゴリーになる。そして海の家やスキー場、さらにビル建設や道路工事など、期間限定の業務については「有期事業」となる。

よく工事現場の入り口に「労災保険関係成立票」という白い看板が貼られているが、あれが労災加入の証拠となる。怪我や事故が起きやすい現場作業において、労災加入は事業主の超当然の義務であり、それがあるからこそ作業員も安心して働くことができるのだ。

 

それは海の家だって同じ。灼熱の浜辺で仕事をすれば、もやしっ子ならば一日で倒れてしまうだろう。

ところがおよそ2か月間もの間、よりによってクソ暑い日中に働くとなれば、やはり相当な体力が必要となる。ともすれば熱中症でダウンしたり、砂浜で負傷したりとリスクは十分に考えられる。

よって、確実に労災適用させておかなければ、安全な職場とはいえないのである。

 

こうして私は「何丁目以下が空白」の住所で、労働保険成立届を作成した。どことなく不完全で不思議な気分だが、浜地なのだから仕方ない。

そういえば、ちょっと変わった事例で富士山の頂上がある。富士山頂は「境界未定」のため住所というものが存在しない。ではあの土地は誰のものなのか?…なんと、富士山本宮浅間神社の私有地なのだ。神聖なる富士の頂は、国のものでも静岡県のものでも山梨県のものでもなかったのである。

ちなみに皇居ですら「千代田区千代田1番」という立派な「番」がついているが、あそこはちゃんとした土地だから当然か…。

 

などとまぁ、知らないことを知るのは面白いことである。今年の夏、機会があれば材木座海岸へ出かけてみてはいかがだろうか。

 

サムネイル:工事現場に掲げる標識について/国土交通省九州地方整備局より抜粋

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