かびはへばや物語 URABE/著
ーー春子は言葉を失った。 後で食べようと、ビニール袋に包んで冷蔵庫へ寝かせておいたトウモロコシに、カビが生えていたからだ。 春子にとってトウモロコシは、サツマイモやジャガイモらと首位の座を争う...
ーー春子は言葉を失った。 後で食べようと、ビニール袋に包んで冷蔵庫へ寝かせておいたトウモロコシに、カビが生えていたからだ。 春子にとってトウモロコシは、サツマイモやジャガイモらと首位の座を争う...
「せんせー、これはどうなんですか?」 教授を囲みながら生徒たちが質問を投げる。 「それはですね・・」 教授は丁寧に説明を始める。一通りの説明が終わると、また別の生徒が挙手する。 「じゃあ薬事承認された薬品が...
目が覚めると体がダルい。 若干熱っぽい気もする。 昨日朝と夜と2部練したせいかな、とか思いながら、ベッドから起き上がった私はウーバーイーツでコーヒーを注文する。 それにしてもエア...
私は幼いころから、第六感が冴えている。 霊が見えるのとは違って、いわゆる「虫の知らせ」とか「なんとなく感じる」とか、そういうことが多かった。 その「なんとなく」を、口にすることもあればしないこ...
攻撃的な鮮やかさの青空と、鬱陶しいほどの圧力を放つ太陽が、わたしの視界の自由を奪い進路を妨げる。 * いよいよ夏本番。 容赦なく突きつけられる真夏の洗礼とやらに、わたしはただ立ち...
——ウソでしょ。そこまでゴツくなったと言うの?? 告別式へ向かうため、数年ぶりにワンピースタイプの喪服をかぶったところ、胸あたりで頭と腕が詰まり、窒息しかけた。発狂のあまり私は、布を破る勢いで...
人ひとりがようやく歩けるほどの狭い通路を進む。足取りは重く、憂鬱な気分は増すばかり。 前を歩くは作業服のオッサン。くたびれた古いリュックが肩からずり落ちかけている。 「残りの人生、夢も希望もあ...
かあちゃんはオレがまだ赤ん坊のころ、理由もなく殺された。卑劣極まりない残酷な殺され方をしたらしい。あえて死因を挙げるならば「圧死」だろう。かあちゃんはどれほど痛い思いをしたのか。考えるだけで怒りと涙があふれ...
なんだろう、透明なグラスに注がれた水をゆらゆらと漂う、墨の残骸のようなヒモは。 ときに目の前へ泰然と現れたかと思うと、目玉を動かせばサッとどこかへ消えてしまう、素早さと意地悪さを持ち合わせている。 &nbs...
よく「作品には作家らしさが出る」というが、とくに食べ物はその傾向にある。 俺が「あの女(ヒト)」を強く感じたのは、冷えた餃子を食べたときだった。 焼きたてどころか冷蔵庫で一日寝かせ、冷たくちん...
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