大預言 URABE/著

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私は幼いころから、第六感が冴えている。

霊が見えるのとは違って、いわゆる「虫の知らせ」とか「なんとなく感じる」とか、そういうことが多かった。

 

その「なんとなく」を、口にすることもあればしないこともある。後からその通りだったと知って、答え合わせをすることもある。

なんで言わないのかって?

・・そんなこと知ったって気持ち悪いだけでしょ。

 

わざわざ私が伝える必要もなければ、相手がそれを知る必要もない。人生なんて自然であり必然であり、事前に知っていようがいまいが、結果として変わることはない。

 

だったら余計な不安を煽るより、ありのままで平和に過ごしたほうが幸せだろうから。

 

そんな私は最近、ちょっと変わったカフェで働き始めた。

その名も「預言カフェ」。

私が預言をするんじゃなくて、神様から言葉を預かってお客さんに伝える仕事。

 

この「預言」は耳から言葉を聞くのではなく、私の脳内にイメージとして降ってくる感情を言葉にするため、表現がなかなか難しい。

お客さんが大切にしている「小さなもの」があるとして、それが子どもなのかペットなのか、はたまた人形やプラモデルなのか、私には分からない。

ただ「そういうイメージ」が入ってくるだけだから。

 

驚くことに連日、たくさんのお客さんが来る。

神様からの預言をもらいに、照りつける日差しの下で長蛇の列をつくって待っているのだから、偉いもんだ。

 

ところが今日、私は本能的に危険を感じた。

「こいつは入れちゃダメだ!」

急に神様からのお告げが聞こえた気がした。もしかすると、第六感がはたらいたのかもしれない。

とにかく、危険が迫っていることを強く感じた。

 

ーーこいつは人間のカタチをした悪魔だ!

 

どこからともなくそう確信した私は、店内に押し入ろうとする悪魔を全力で阻止した。

だが悪魔はさすがの威力、いや、圧力を放つ。ものすごい目力で、バリケードを突破されそうになる。

そこで私は最後の力を振り絞り、こう叫んだ。

 

「神を信じてないでしょ!」

 

悪魔はしばらく私を見つめていたが、なにか呪いの言葉を呟きながら去って行った。

 

本当に危なかった。

でもやっぱり、人の皮をかぶった悪魔というのは存在するのだと、知ることができてよかった。

 

 

高田馬場、かつて学生時代を謳歌した懐かしの土地だ。

 

このクソ暑い真っ昼間に、アタシは新宿労働基準監督署へ向かっている。

仕事だから仕方ないが、国や行政もそろそろオンラインで各種調査を行うように方向転換した方がいい。そしたらお互いに楽になるはずだ。

 

しかし約束の時間まで30分以上ある。このままでは早すぎるし、かといって労基署内で待ちたくはない。

 

とそこへ「カフェ」の文字が飛び込んできた。

「預言カフェ」とかいう変な名前のカフェだが、まぁいい。コーヒーでも飲みながら時間を潰すとしよう。

 

入り口に置いてある名簿のようなものに偽名を書こうとしたところ、店員の女性が出てきた。

「お、お客さま。ただいま店内が混み合っていまして、しばらくお待ちいただくことになります」

なんでこいつは青ざめた顔をしてるんだ?まぁいいや。

 

どう見ても混み合っていない店内をアゴで指しながら、アタシは質問した。

「半分くらい空いてるけど、あれは予約かなんか?」

すると女は小声で、

「よ、予約ではないですが、あのテーブルは使えません」

と答えた。

 

何言ってんだ?客が一人入れば、店の売上げも上がるだろ。コーヒー一杯で千円近くとるんだから、とにかく入れときゃいいだろ。バカなのか?こいつもこの店も。

 

「あのさ、ここって何かの宗教に入ってないとダメな店なの?」

アタシを拒否る理由があるとすれば、これしかない。頭ごなしに入店拒否とかありえないだろう。

何らかの宗教の信者でなければ入れない、というならば納得できる。てか、そうならそうと店頭に書いとけよ、うぜーな。

 

すると女は意外な答えを返した。

「い、いえ。宗教は関係ありません」

 

・・・じゃあなんでだ?なにが理由なんだ?

まったく分からない。アタシが金を持ってないとでも思ったのか?

 

すると続けてこう質問してきた。

「あ、あなたは神を信じてないでしょ?」

これには一瞬、答えに迷った。

どこかで聞いたことのあるセリフだが、それより今は、この女が「間違いなく神の存在を信じている顔つき」であることが恐ろしい。

 

神がいるかいないかなど、考えたこともない。なぜならさほど重要なことではないからだ。

だが「神という存在を信じるか信じないか」と聞かれると、難しい。

この世に絶対はないわけで、もし神がいて、その存在を信じるか否かと問われれば、いるならば信じるしかないからだ。

 

ていうか、アタシはいま宗教に勧誘されてるのか?

コーヒー飲んで時間を潰そうとしただけなのに、なぜこんな質問をされて、入店を拒まれてるんだ?

 

ただでさえ暑いのに、加えてバカバカしさがこみ上げてくる。

 

そこでアタシは、

「信じてるよ」

と笑顔で答えると、店を後にした。

 

預言カフェというくらいだから、コーヒー一杯では済まないかもしれない。そうなると、労基署での調査に間に合わない可能性がある。

今は神のお言葉より、監督官のご指摘のほうが重要なのだ。

 

神については後ほど、じっくりと考えることにするわ。

 

 

(完)

 

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