表っぽい裏

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「上質な不良品」とでも言おうか。

規格外であることに変わりはないが、それが非常にハイクオリティーだったりすると、欠陥品であることに気づかず手こずらさられる。

 

なんのことかと言えば、使い捨てコンタクトレンズの話だ。

 

不良品が上等すぎて、一見、不良品に見えないという不具合が生じる。

とくに現在使用しているコンタクトレンズは、このパターンが多いから困る。

 

わたしの愛用品は「生レンズ」という、なんとも魅力的なネーミングの使い捨てコンタクト。

 

シリコーンハイドロゲル素材が、従来のコンタクトレンズと比べて6倍の酸素を通してくれるらしい。

おかげで角膜が酸欠にならない。

 

さらにこのレンズは、人間の涙に含まれる「フォスファチジルコリン」という成分を含有しており、必要に応じて涙と調和し、涙の蒸発を防いでくれるのだ。

おかげで、わたしの目は一日中乾燥知らず。

 

そもそもソフトコンタクトレンズは乾燥を防ぐために、涙から水分を吸収してレンズの形状を保っている。

 

つまり、

「うるおいたっぷり」

というのは「目から水分を奪ったレンズ」がうるおいたっぷりという、恐るべき本末転倒。

これこそがドライアイを引き起こす原因となる。

 

どうせなら、

「涙から水分吸収!瞳カラカラ、レンズうるおいたっぷり」

と表記するほうが正しいだろう。誰も買わなくなるが。

 

ところがシリコン素材のレンズであれば、この不安から解消される。

 

寝る前に捨てたレンズが、翌朝もそこそこの弾力を帯びたままゴミ箱に貼りついていることが、何よりの証拠。

 

かつてのレンズ(ハイドロゲル)は、翌朝になればカピカピに干からびて、指で押せばパリッと割れた。

それがシリコーンハイドロゲルならば、自らの力で柔かさを保ち、翌朝もシットリ。

そのみずみずしい屍に水分を与えると、新品同様によみがえる。

 

このように、コンタクトレンズが必需品のわたしにとって、毎日手放せない存在の生コンタクトレンズ。

 

だが、極めて優秀なこの相棒は、時にわたしを困らせる。

 

 

(・・・どっちだ?)

遅刻寸前、大忙しのわたしに対して、相棒から挑戦状が叩きつけられた。

 

(これは表なのか、裏なのか)

人差し指の腹に乗っけたレンズは、絶妙なカーブを描いている。表にも見えるし、裏にも見える。

コンタクトレンズ歴ン十年のわたしですら、見誤るほどの見事なカーブだ。

 

(・・・とりあえず入れてみよう)

どれだけ見つめてもそこに答えはない。まずは目に入れてみよう。もし裏ならばゴロゴロと違和感があるはず。表ならそれで終わりだ。

 

(・・・)

やや違和感があるが、ちゃんと見えるといえば見える。

 

こういう微妙な状態が、このレンズではよく起きる。

裏返しの場合、明らかに見えにくければその時点で気付くのに、裏でもそこそこ見えてしまうあたり、高性能で優秀なレンズといえよう。

 

このままでいいのか悪いのか、判断できないわたしは一旦レンズを外し、再び指の腹に乗せてみる。

 

(・・・念のためひっくり返してみるか)

レンズの端っこをつまんでひっくり返す。再度、ひっくり返したレンズを眺める。

 

(あまり変わりないな)

通常、裏返しの場合はレンズの縁がちょっと反り返り、麦わら帽子っぽいフォルムになる。

レンズが裏返しでなければ、深くてキレイなカーブを描き、例えるならヘルメットのよう。

 

つまり、普通のソフトレンズならば一目瞭然なのだが、この優秀なレンズの不良品ではその差がほとんど見られない。

 

(んーー、これは縁が反ってるように見えなくもないから、裏だろうな)

そう思いながらも、半信半疑で目に入れてみる。

ーーうん、これは裏だ。

 

すぐさま外す。が、外した瞬間にレンズが裏返ったように見えた。

 

(アレ?いま、裏返った??てことは、もう一度ひっくり返さないとダメか?)

手のひらに落ちたレンズは、一度ひっくり返ったようにも見えたし、そのまま落ちてバウンドしただけにも見えたし、どうなったのかよく分からない。

 

とりあえず、指の腹に乗せて横から眺める。

(クソッ!どっちにも見える)

表にも見えるし、裏にも見える。

 

ーー致し方なし。このまま装着してみよう。

 

(ぬぅぅ、裏だ!!)

レンズに騙された。これは裏だ、このゴロゴロする感じは、間違いなく裏だ!

ならば外す時に裏返らないように外せば、次こそは表で装着できる。

 

慎重にレンズを外す。

 

がしかし、なんとまたひっくり返ったような返らないような、微妙な外れ方をした。

 

こうなる理由として、誤った形(裏)でレンズを装着していたため、外した拍子にレンズが正規の形(表)に戻ろうとするのだ。

 

過去に使用していたレンズは、表面に123と数字がプリントされており、それを見て表裏を判断していた。

だがこの生レンズには、そういった目印はナイ。

 

手のひらに横たわるレンズを見つめる。

 

ーーオマエは今、裏なのか?表なのか?

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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