今後、時代の流れとして「副業=ダブルワーク」が増えるとなると、社会保険に関して「厄介な手続き」が発生することを覚えておいてもらいたい。
そもそも、
「社会保険の手続きは会社がするもの」
と思っている人が多いだろう。
大方間違っていないし、そのための部署や担当者まで確保されているのだから、会社の仕事といえる。
だが一つだけ、会社がやってくれない手続きというものがある。
それが「二以上事業所勤務届の届出」だ。
正式名称を「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択 二以上事業所勤務届」といい、2カ所以上の会社で働くようになった際、先方でも社会保険加入となった場合に、本人が届出をする書類。
もちろん、ダブルワーク先での労働時間が短く、社会保険加入とならなければ問題はない。
だが、2016年から始まった「社会保険の適用拡大キャンペーン」により、順次、社会保険加入者が増えつつある。
現在では社会保険加入者数が500人を超える企業で働くパート・アルバイトで、週20時間以上働く人は社会保険に加入となる。
ちなみに、これまでの原則は週30時間以上働く場合なので、
「週30時間未満なら社会保険に加入しなくて済む」
と思っていると痛い目にあう。企業規模によっては、同じパート・アルバイトでも社会保険に入れたり入れなかったりするからだ。
なお、2022年10月からは100人超、2024年10月からは50人超の「社会保険加入者を抱える企業」が、適用拡大の対象となる。
これはダブルワークに限った話ではない。現在働いている勤務先がこの要件に該当する場合、そこで働くパート・アルバイトは強制的に社会保険加入となるわけだ。
メインの職場で既に社会保険加入済みの労働者(被保険者)が、ダブルワーク先で社会保険加入要件を満たす場合、ダブルワーク先でも社会保険加入の手続きが行われる。
しかし「二以上事業所勤務届」の届出は、会社ではなく本人が行わなければならない。
下手するとダブルワーク先では、当該労働者(被保険者)が別の会社で社会保険に加入していることなど知らない場合もある。
つまり、自ら「二以上事業所勤務届」を届出なければ、後で大変なことになるのだ。
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「先生、なんでこの人だけ別に保険料を納付しなければならないんですか?」
顧問先からの問い合わせ。
聞くと、二以上事業所勤務者が顧問先を「主たる事業所」に選択した様子。
しかも最悪なことに、本人が「二以上事業所勤務届」の手続きを怠ったため、半年ほど遡っての処理となる。
そのため、まずは保険料の還付が発生した。
入社から半年、およそ50万円の保険料が会社へ還付された。その後、ほぼ同額の保険料を改めて納付し直すことに。
顧問先は口座振替を用いて保険料を納付しているが、二以上事業所勤務者の保険料に関しては、通常の口座振替は使えない。
よって、納付方法は二者択一。
・納付書を使って納付する
・二以上事業所勤務者のために新たな口座登録をする
このいずれかの方法で納付しなければならない。
たしかに会社としてはいい迷惑だ。
これまではなんの煩わしさもなく、毎月自動で引き落とされてきた保険料。それがたった一人の労働者(被保険者)のために、ひと手間もふた手間も挟むことになるのだから。
ましてや本人が手続きを失念していたせいで、「全額還付」という無駄なやり取りが発生したのだから、怒り心頭に発する。
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ただし、この手続きには実務上の不備がある。
まず一般人は、このような制度があることを知らない。そして手続きが「書類を郵送」となると、なかなかめんどくさい。
さらに政府は「電子申請できますよ」というが、本人の電子署名が必要であり、そんなものを個人で取得している殊勝な人間は、ほぼいない。
まだこれが「社労士に代理委任できる」とあれば別だが、社労士は事業主の提出代行しかできないため、労働者本人が行う手続きを代行することはできない。
これまでは、複数の会社で役員に就任している人などが二以上事業所勤務者となっていた。そのため、一般的な労働者が該当するケースは少なかったのだ。
しかし昨今の副業ブームから、ダブルワーク(雇用が前提)先で「社会保険加入要件を満たす」場合、この手続きが必要となることをどれほどの人が理解しているだろうか。
「保険証が2枚あるんだよね」
発端はこんなところだ。保険証は1枚でなければおかしい。そこで初めて「二以上事業所勤務者」であることが発覚する。
当然ながら2枚の保険証をそれぞれ使ったりすれば、後から面倒なことになる。最終的には自分だけでなく、メインの職場にもダブルワーク先にも迷惑をかけることとなる。
とはいえ失念していた本人へ返ってくる「とばっちり」だから、仕方ないといえば仕方ないのだが。
いずれにせよ、「知らなかった」では済まされないことがある。世の中の大部分がそうであるように。
周知しない政府が悪い、役所が悪い、会社が悪いーー。
他人のせいにするのは容易い。だが損をするのは自分なのだから、やはりアンテナを張って自らの行動には責任を持つべきだろう。
もはや、誰かに頼って生きていく時代ではないのだから。
Illustrated by 希鳳
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