2022年10月からの社保拡大にかかる、専門家派遣制度

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今年の10月から、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大の第二段が実施される。平成28年10月から順次適用拡大されるこの仕組み、多くの労働者にとっては「他人事」だと思われる。

実際、多くの事業主にとっても他人事である可能性が高い。なぜならこれまでの適用拡大に該当する事業所は、ある程度の規模が必要とされていたからだ。

 

これまでの適用拡大に関する事業所要件は、

「社会保険の被保険者数が500人を超える事業所」

という大きな組織に対する適用だったため、それなりの企業で働く人以外は関係のない話であった。

 

しかもこの人数要件について、注意しなければならないことがある。それは、

「労働者数が500人ではなく、被保険者数が500人」

という点だ。社会保険の加入要件をざっくり説明すると、

「労働時間が週30時間以上の労働者」

である。そしてこの要件を満たした被保険者が500人を超える事業所に対して、労働時間が週20時間以上のパート・アルバイトについても、今年の10月からは社会保険に加入させなさい、というものである。

つまり、1,000人規模の事業所でも、半分以上の労働者が週30時間未満の勤務シフトで働いていたとすると、この事業所は適用拡大に該当する事業所とはならないのだ。

 

多くの事業所がフルタイム労働者(いわゆる正社員)で成り立っている現状から考えると、労働者数が1,000人もいれば被保険者数は501人以上となるだろう。あるいは、労働者数が501人だったとして、全員が被保険者(正社員)というケースもありえる。

しかし厳密には「被保険者が500人を超える」という条件のため、勘違いをしないように念を押しておく。

 

そして今年の10月からは、この500人という部分が100人に改正される。つまり、社会保険に加入する人(被保険者)が101人以上の企業は、適用拡大の対象となるのだ。

こうなると案外うかうかしていられない。仮に「常勤役員が10人、労働者が100人程度の企業で、9割が社会保険加入者」だとすると、被保険者が100人を超える事業所に該当する可能性が出てくる。そうなると、週20時間以上働くアルバイト(学生を除く)で月に8万8千円以上稼ぐ人は、社会保険に加入しなければならない。

 

じつはこの話、単純に「社会保険に加入となります」というだけでは終わらない。ダブルワークや法人役員に就任している場合、つまりどこかですでに社会保険に加入している場合、追加で社保加入しなければならないので「二(以上)事業所で加入」となる。

さらに複数の事業所で社会保険加入となると、本人がすべき面倒くさい手続きが待っている。

そこで、これらも含めて

「そんな話、聞いてないよ!」

と事業所が混乱しないように、日本年金機構は依頼のあった事業所へ専門家=社労士を派遣する支援制度を用意している。そして私は、この制度に則って某企業へ専門家として派遣されたのである。

 

「適用拡大の仕組みについては理解しています。その先の、実務上の部分でいくつか質問があります」

 

派遣先の担当者と向き合う。彼は人事労務畑を渡り歩いたプロであり、私などが言葉を発する前に、今後起こりうる可能性をすべて把握していた。その上で、実務上ぶつかりそうな壁やリスクについてアドバイスがほしいとのことだった。

こういう時に、実務経験のある社労士が役に立つ。ネットで調べたり、法律を読み漁ったりするよりも、実際にどうなのかという体験談は社労士の専門分野といえるからだ。

「うちはこうだった!」

という素人の意見は正直怪しい。その事業所にとってはそうかもしれないが、それがすべての事業所に当てはまるとは限らないからだ。

その点、法律と実務との両方を拾うことができる社労士は、アドバイザーとして適任といえる。

 

そしてこれは単に社会保険加入の問題だけではない。それに伴う労働条件の変更や、人件費の増減にもかかわる話のため、労務管理のみならず財務や経営についても理解した上での助言でなければ、意味がないからだ。

 

 

個別相談後の談笑で、当該事業所からそれほど離れていないところに住んでいながらも、タクシーを使って来訪したことを告げると、

「今日は天気もいいので、帰りはぜひ歩いてください」

と、これまた適切なアドバイスをピシャリといただいた。素直な私はその助言どおり、テクテク歩いて帰宅したのであった。

 

(もしかすると彼は、常識の専門家だったのかもしれない)

 

サムネイル by 希鳳

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