「変人は スルーしてれば 被害ゼロ」

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ーー寒すぎる

 

三田警察署はコロナ対策が万全ゆえ、我々が拘束される講堂には、真冬のすきま風が吹きすさぶ。

受刑者、もとい受講者らはガクブルしながら講義を聞いている。

 

これだけ隣人との間隔も十分保てているわけで、窓くらい閉めてもいいのではないかと思うが、さすがは警察、完璧なコロナ対策を実施している。

 

私は今日、3年に一度の「猟銃等講習会」に参加している。

 

 

とにかく寒いの一言に尽きる。

講師の話も頭に入らないほど、寒さに震えている。

ましてや、

「教本は開かなくていいです」

などと言われ、ただひたすらじっと着座したまま、講義に耳を傾けなければならない。

 

そのうち何が起きるかというと、通常は眠気が襲ってくる。

だが今日は、あまりの寒さで眠気すら訪れない。

(このための作戦か)

大のオトナに向かって居眠り防止ですきま風を取り込むとは、古典的とはいえ正当であり効果的な方法だ。

 

うつむきながら小刻みに震える私のマスクが、徐々にずり上がってくる。

そのうち、下まぶたがマスクで隠れる。

私は口を動かしながらさらにマスクを持ちあげ、とうとう目まで隠してみた。

 

・・・・。

 

こ、これは温かいぞ。

目など布で塞いでも温かくなるものではないだろうが、目、鼻、口をマスクで覆ってみるとなぜか寒さを感じない。

どのみち目は閉じていたのだから、マスクで隠そうが隠すまいが変わりはない。

ましてや寝てなどいないわけで、怒られる筋合いもない。

 

講師は最初に、

「教本は見なくていいので、耳だけ傾けといてください」

と言った。

私は間違いなく、耳だけは傾けている。

 

背筋を伸ばし、しっかりと前を向き、講師の話を聞く私。

だが、目を含む顔の大部分はマスクで覆われている。

 

自らの顔を見ることができないので、果たしてどのような印象を持たれたのか不安ではあるが、結果的に私は注意されることも驚かれることもなく、無事に30分の講義が終了した。

 

 

人を論破するのが仕事(弁護士)の友人に、警察署の入り口に置かれた「特殊詐欺撲滅」の立て看板の画像を送った。

そこには、

「犯人の 電話に出ないで 被害ゼロ」

と書かれている。

 

この標語を見た私は、

「犯人だとわかっていたら、電話には出ないだろう」

と、ひねくれた考えを持った。

 

どうやら友人も同じ疑問を抱いたらしく、私へこう要求してきた。

「その電話が犯人からだと、どうやったらわかるのか聞いてみてよ」

「そのうえで、どうやって犯罪の電話かどうかを見極めるのか、そのポイントを標語にすべきだと伝えて」

運悪く、私は三田警察署で身柄を拘束されている。

嫌でも警察官に囲まれている。

 

友人へ、

「この質問のせいで人格を疑われて、銃の所持許可取り消されたらどうしてくれるの?」

と尋ねると、

「正義のためのアクションだから、仕方ないよ」

と説き伏せられる。

 

私はしぶしぶ、若い警察官を捕まえ疑問を伝えた。

「あー、たしかに電話に出るまでわからないですね」

・・そりゃそうだ。

 

ちなみに、「電話に出ないで」の意味として、ナンバーディスプレイを使うとか、迷惑防止機能付電話機を使うとか、留守電に入れさせてからかけ直すとか、そのための対処法が挙げられている。

よって、我々の意見は単なる屁理屈ともいえる。

 

そこで私は警察官に提案をした。

「いまどき固定電話なんて少ないでしょ、携帯にかかってきた電話を留守電にして、それからかけ直すなんてナンセンスだよね」

「ましてやお年寄りが詐欺被害にあうわけで、どんなに警戒したってやっぱり難しいと思う」

「だから、犯人側に呼びかけたらどう?笑っちゃって犯罪する気も失せるような標語で」

 

今あるスローガン

「犯人の 電話に出ないで 被害ゼロ」

を元に、加筆修正を試みる。

 

具体的には、

「犯人は 電話しないで! 被害ゼロ」

「犯人が 電話をすれば 被害ヒャク」

などは、どうだろうか。

 

いずれも「そりゃそーだ」となるし、なおかつ笑える。

笑った先には犯罪の抑止力が期待できる。

 

そもそもこんなの、笑ったモン勝ちだ。

小難しいこと並べて理解に苦しむくらいなら、一発笑ってネガティブな感情を吹き飛ばした方が、よっぽど犯罪抑止につながるのではないか。

 

まゆ毛がキリっと整った若手警察官に、くだらないことでウザ絡みをするうちに、なにごとかと他の警察官らが寄ってくる。

そして私の意見に皆、ウンウンとうなずく。

 

(ヤベー奴、早く追い返せよ)

 

そんな雰囲気しか感じられない、土曜午前の三田警察署だった。

 

 

Thumbnailed by オリカ

 

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