道端に転がる業務用ゴミ箱から飛び出してきたネズミに抱く嫌悪感について

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普段から目にしているとそうでもないが、たまに見かけるからギョッとするのだろうか。繁華街を歩いていたところ、倒れた業務用ゴミ箱の陰から一匹の黒いネズミが現れ走り去っていった。

——ネズミにビビるなんてありえない。あんな小さくてヒトを見たら逃げるような動物を、怖いと思うのはおかしいじゃあないか。

 

ネズミといえば、ミッキーマウスやピカチュウ、トムとジェリーのジェリーなど、世界中で愛されるキャラクターとして起用されるほど、どちらかというと可愛らしいポジションを確立している。おまけに、わたしが大好きな"カピバラ"は世界最大のネズミであり、いわばネズミ界を代表するボス的存在なのだ。

そんなカピバラの下位互換のような路地裏のネズミ——体色は黒で尻尾がながかったので、クマネズミだろう——が目の前を横切る姿を見て、思わずギョッとしたことに驚いた。なぜわたしは、ネズミごときにビビったのだろうか。

もしも、アレがハムスターやモルモットならば「かわいいー!」となるであろうところ、ネズミだと認識した瞬間に嫌悪感に変わるのは、よくよく考えると不思議である。いったい何がそこまで違うというのか——。

 

その要因の一つとして、尻尾の存在が挙げられる。昨日見かけたネズミには、毛の生えていない長い尻尾がついていた。全身が毛で覆われているにもかかわらず、尻尾だけがミミズのような生々しい質感であることが、われわれ人間にとっては不気味な存在に写るのかもしれない。

ペットとして飼われている体毛のある動物は、どれもみな頭のてっぺんから尻尾の先まで毛で覆われている。さすがに腹あたりは皮膚が見えるとはいえ、そこは許容範囲。このように、全身が毛で覆われている哺乳類の多くは、尻尾まで毛が生えていなければならないのである。

ちなみに、例外があるとすれば"ヒト"だろうか。一応、産毛と呼ばれる細かい毛が生えてはいるが、頭髪のようなフサフサなものではないので、むしろわれわれが異質な存在なのかもしれない。

 

そんなわけで、リアルに剥き出した皮膚のようなあの質感が、わたしをギョッとさせたのだ。とはいえ、そんな不気味な尻尾であったとしても、毎日見ていたらいずれは慣れるもの。——そう、ネズミにビビるもう一つの要因として、素早さが挙げられる。

 

ヒトは素早く動くものを本能的に警戒する。しかも、俊敏かつ不規則に移動する個体に恐怖を覚える性質がある。たとえばゴキブリなど、鳴きもしなければ噛みつきもしないし、悪臭を発するわけでもないのに、視界に入った瞬間にゾッとするのはあの素早い動きのせいだろう。

捕まえようにも捕まえられない、どこへ逃げるのか予測不可能な動きが、人間が持つ恐怖と警戒心をマックスまで引き上げてしまうのだ。それに比べて、ただ単に"黒い昆虫"といえばカブトムシやクワガタ、ホタルやコオロギなどもいるが、片や高値で売買されたり季節を彩る風物詩として重宝がられたりと、ゴキブリとは正反対の扱いを受けている。

これもひとえに「動きが素早くないから」だろう。彼らだって、断じて心安らぐ愛らしいフォルムではない(一部マニアを除く)わけだが、ゴキブリのように予測不可能な奇妙な動きをしないことが、彼らの地位を高めているように思うのだ。

 

このように、害虫や害獣と呼ばれる生き物は逃げ足が速い傾向にあり、ネズミは正にこの法則に当てはまる。だからこそ、何をされたわけでもないのにギョッとしたのか——。

 

 

そういえば、ネズミ界の頂点に君臨するカピバラも、たまに予測不可能な動きをすることがある。

「なぜいきなり飛び跳ねた?」「なぜ急に方向転換をした?」・・そんな不思議な挙動をみせることがあるのだが、見た目の愛らしさが勝っているからだろうか、どこをどう見ても微笑ましい動きにしか見えないのである。

 

同じネズミなのに、この差はなんなんだろうか——。

 

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