パソコンのツールバーに表示される時刻というのは、世界中どこにいても日本標準時を示している。そのため、いつどこにいようがタイムリーに仕事ができて助かるのだ。
わたしは今、米国(ラスベガス)にいるが、日本との時差は16時間ある。ここまでくると、もはや現地が何時なのかを考えることすら面倒になってくるわけで、「中途半端に真逆な時間だろう」くらいにしか思えない。
しかも厄介なのは、日本のほうが一足早く未来を行くわけで、「9月1日金曜日の夕方」というパソコンの表示を見ながらも、わたしがいる場所は「8月31日木曜日の深夜」であり、まだ色々と間に合いそうな気がしてしまうのである。
ちなみにこの「木曜日」と「金曜日」について、役所相手に仕事をしている人間にとっては大きな違いがある。
今日が木曜日ならば、まだゆとりを持って仕事を進めることができる。しかし金曜日となると後がない。ご存知の通り、役所は土日が休みのため、なにがなんでも金曜日のうちに済ませなければ、タスクを翌週まで持ち越すこととなるのである。
ところが、週末直前の金曜日に限って、役所へ駆け込む人間が多いという苦い現実がある。そのため、電話が繋がらなかったり対応が後手に回ったりと、金曜日ほどストレスを抱える日もないのである。
そしてこんな時に限って、顧問先での労災事故が多発する。他のトラブルならば、「(アメリカが)朝を迎えてから対応しよう」となるが、労災となるとそうもいかない。さらに、一刻を争う事態だったりすると、こちらが夜中の4時だろうがなんだろうが、サポートしないわけにはいかないのである。
というわけで、眠い目をこすりこすり労災と通勤災害の発生状況について確認をするわたし。
「雨で事業場の外階段が濡れており、荷物を運ぶ際に滑落して肩甲骨を骨折、その他周辺の腱も損傷」
状況を含む必要事項を記入し終えると、さっそく事業主に書類を送信する。
「えっと、階段じゃなくて帰宅途中の道路です。バイクで転んだんで・・・」
いったいどんな聞き間違いをすればこうなるんだ・・。わたしは慌てて状況を整理し直した。すると、二つの事故が混じっていることに気が付いた。
一方は、事業場内の階段を使って材料を運ぶ途中で転落し、肋骨と手首を骨折。もう一方は、雨で濡れた路面をバイクで帰宅途中に転倒し、肩甲骨を骨折した上に周辺の腱も損傷。
(あぁ、二つの事故が混じってしまったのか・・)
確かに、文字を入力しながら「どんな状況なんだ?」と不思議に思っていた。階段から滑り落ちて肩甲骨を骨折するとは、通常では考えにくい状況である。肩甲骨を強打して骨折するならば、ついでに頭部も強打しそうなものである。わざわざ肩甲骨のみにダメージを与える転び方をするのも、逆に難しいのではなかろうか——。
その結果、やはり単なる階段からの転落ではなく、バイクでの転倒による肩甲骨の骨折であることが分かった。
これはまだ、役所へ申請する前の時点ではあるが、それでも今日が木曜日であればすぐさま修正し、即日、医療機関へ提出・翌日に回収することができる。だが金曜日のミスとなると、医療機関の証明後に書類を回収する余裕はなくなる。
とはいえ、そこまで大げさに言うほどの緊急性があるわけでもない。それでも依頼を受けたら速攻でどうにかしたいと思うのが、個人的な職業病のようなもの。それゆえに、金曜日の事件・事故はストレスを感じるのである。
*
そうこうするうちに、アメリカも金曜日を迎えてしまった。日本の金曜日は夜に突入しようとしているが、それを追いかけるように、わたしの金曜日が始まろうとしているのだ。
もう一度、この金曜日をやり直すことができたなら——。そんな情けない戯言を吐くような週末はお断りである。
世界中のどこにいようが、わたしの仕事は日本標準時を起点に回っている。夜中だろうが砂漠だろうが、電波さえあれば「仕事最優先」を貫くことができる。
この揺らぎない信念こそが、わたしの体内時計の基礎となっているのだから。
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