(これって、ペヤングソース焼きそばじゃ・・・)
まさか、と思うほどの安定感で満たされたそのカップ焼きそばは、パッケージを見なければペヤングだと思っただろう。なんせわたしは高校時代、「ペヤング」と陰口を叩かれていたほどのペヤング好きなわけで、そんなわたしが大好物の味を間違うはずがない。
というくらいに、ペヤングそっくりの味と見た目のカップ焼きそばを、北海道で見つけたのである。
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地方での楽しみといえば、間違いなく「食べもの」だろう。ご当地〇〇や地酒、郷土料理などに舌鼓を打つことで、移動の疲れもキレイさっぱり吹っ飛ぶからだ。
しかしわたしレベルになると、「北海道といえば、やっぱりジンギスカン!」「いやいや、北海道といえば新鮮なネタをのせた寿司でしょ!」「違うよ、ウニだよ!」「じゃがバター!」「石狩鍋!」「鮭のチャンチャン焼き!」などといった、いかにも旅行客が飛びつきそうな「ビジネスご当地メニュー」には目もくれない。
とはいえ小学生の頃、わたしはウニが食べられなかった。ところが、利尻島で初めて食べさせられたウニは、予想をはるかに上回る鮮度と風味だったため、思わずおかわりをしてしまったのだ。つまり、ホンモノならばなんでも美味しく食べられる可能性は高い、ということだろう。
そういう特殊な体験は別として、わたしが地方で好む食べものというのは、コンビニやスーパーで売っている「ご当地限定のスナックやカップ麺」を食べることなのだ。そのジャンクで強引な味付けこそが、ご当地モノの真骨頂といえるからだ。
そして今回、雄大な大地と豊かな自然に恵まれた、最上級の広域自治体である北海道のコンビニで、わたしは「やきそば弁当」を見つけたのである。
そのパッケージには、デカデカと「北海道限定」「北海道工場からお届けします」などと書かれてあるわけで、ここまでカップ焼きそばを推している都道府県というのも他にはないだろう。
(ところで「やきそば弁当」って、どのあたりが弁当なんだろう・・・)
これについて、マルちゃん正麺や赤いきつねと緑のたぬきで有名な東洋水産は、
「四角いカップ容器の形状が弁当箱に似ていることから、『やきそば弁当』としました。」
と答えている。嘘だろ?!と突っ込みたくなるが、製造元が公式に回答しているのだから、それ以上の追及は野暮である。
個人的な見解としては、このカップやきそばには粉末の「特製中華スープ」なるものが付いているため、やきそばとスープでちょっとしたランチセットのような豪華さになることから、「弁当」を連想させたのではないか?と予想した。だが残念ながら外れてしまった模様。
おっと、「特製中華スープってなんだよ?」と思ったそこのアナタ。そう、このスープの存在こそが着目すべき点であり、まさに度肝を抜かれるアイデア商品だったのだ。
一般的なカップ焼きそば同様に、かやくやスープの小袋が同梱されているが、それとは別に「特製中華スープの素」が入っているのだ。そして、その作り方がとてつもなくエコで画期的だった。
なんと、湯切りで捨てるお湯を器に注ぎ、そこへ粉末の中華スープの素を混ぜることで、焼きそば完成までに関わるすべての材料を無駄にすることなく、かつ、焼きそばでパサつく喉を潤してくれる、という代物なのだ。
たしかに、カップ麺ならば注いだお湯はスープとして飲み干すこともできるが、カップ焼きそばに限っては3分経ったらジョボジョボと捨てるしかなく、さすがに「もったいない」とは思わないが、なんとなく気になっていた。
それが、粉末スープの素をセットすることで、湯切り行為がスープづくりへと変化するのだから、人間の発想というやつは素晴らしい。
こうして完成したやきそば弁当を、割り箸でかき混ぜガッツリ挟むと、残りの麺から切り離そうと高く持ち上げた。軽く縮れた麺たちはズシっと箸にもたれかかり、己の存在感を誇示している。
そして素早く口へ押し込んだその味は、いや、その歯ごたえは、まるで高校時代を彷彿とさせるものだった。
(ぺ、ペヤング・・・)
ペヤングマニアのわたしがこんなことを言ってはならないが、むしろぺヤングよりもまろやかで甘みすら感じるこのソースは、まさに絶品といえる。さらにカットキャベツの大きさとシャキシャキ感は、「さすが北海道!」と言わざるを得ないほど、ゴージャスで満足のいくサイズだ。おまけに、サイコロのようなチキンダイスは臭みもなく食べやすいときた。
(ペヤングの刺激的、いや、挑戦的な濃厚ソースも悪くないが、やきそば弁当の優しさでできたまろやかソースは、毎日食べても飽きがこない味である。もしも近所のコンビニで買えるのならば、わたしは、一世一代の大浮気をしてしまうかもしれない・・・)
そんな不安に駆られながらも、黙々とやきそば弁当を掻っ込んだ。さらに、この「不安」というやつも杞憂にすぎなかった。
残念ながらやきそば弁当は、東京で購入することはできないのだ。東京どころか、北海道以外では販売されていないため、ネット購入以外に入手する術はないのである。
つまり、大浮気をする機会は北海道を訪れたときのみであり、だからこそ味や食感も特別なものに感じてしまうのだ。
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たかがカップ焼きそばと侮るなかれ。
ペヤングを食べた後の口内がもたつく感じが、やきそば弁当には全く感じられなかった。そしてスパイスの効いたペヤングは喉が渇くが、クセのないやきそば弁当は水分を欲することもなかった。
これはつまり、北海道が誇る「恐るべき秘密兵器」なのではなかろうか。
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