日頃から"姿見"のような大きな鏡を見ないわたしは、自分が他人からどのように見られているのかを知らない。たまに、柔術衣を着た状態で鏡の前に立ったり写真に写ったりすることがあるが、分厚い布でできた道着はカラダの凹凸を均等にするため、他人と比べてさほど変わったフォルムだとは思っていないわけで。
そして日常におけるほとんどの場合、顔でも体も自分自身ではなく他人のものを目にすることから、およそ自分もそのようなカタチなのだろう・・と思うのは当然のことである。
——そんなわたしに、盗撮疑惑が発覚した。
盗撮・・といっても撮影者は友人であり同じカフェ内にいたため、魅力的なわたしをこっそり撮影している可能性があることは承知していた。
ちなみに「盗撮」という行為について、東京都が定める"公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例"の第五条によると、
と定められている。また、2023年7月には「性的姿態撮影等処罰法」が施行されているので、無断で対象者の性的な部位を撮影したり、相手の意思に反して性的な部位を撮影したりした場合に、撮影罪が成立することとなるのだ。
そして、友人から送られてきた画像と動画には、露出の多い夏服から艶めかしい肢体がむき出しになったわたしが写っており、「まぁこんな色っぽい姿を見たら、そりゃ撮影せずにはいられないだろうな・・」と、己の性的な魅力を恨んだ。
数枚の画像をスクロールした後に、一本の動画をタップしたわたしは、「わざわざ店の外からズームアップして撮るとは、相当なURABEマニアじゃないか・・」と、半ば呆れ気味で眺めていた。だがその時、ふと「アイツらは、どんな卑猥な会話をしているのだろう」と、男三人が鼻の下を伸ばしてわたしを視姦する様子を思い浮かべてみた。
(お、動画だから会話も入っているんじゃないか?)
そこで、消音になっているスマホの音量を上げて、動画の音声を確認することにしたのだ。
「思った以上にエロいカラダしてるな」
「なんとも魅力的な尻じゃないか」
・・そんな下劣で卑猥な会話が繰り広げられているに違いないと、身構えつつもやや期待を抱きながら耳を傾けたわたしは、思わず我が耳を疑った。
「あのハムストリングス、半端ないよね・・」
ハムストリングスとは、尻のつけ根から太ももの裏側を通って膝裏あたりまで続く、半膜様筋・大腿二頭筋・半腱様筋の総称である。正面から自分を見る機会も少ないのに、腿裏の様子など見たことも聞いたこともないわけで、そこが「半端ない」とはどういう状態なのだろうか——。
いや、ハムストリングスの状態などどうでもいい。それよりも、女性の後ろ姿を見て口をついて出た言葉が筋肉・・という事実が信じられないのだ。「オマエラの目は節穴か?!」と怒鳴りつけてやりたいくらいに、オンナ盛りのわたしにとっては納得がいかないのである。
だが、「足が太くて立派だ」とか「恐るべきししゃも脚だ」とかではなく、わざわざ"ハムストリングス"に着目するあたり、もしかするとハムにはエロスが潜んでいるのかもしれないが・・。
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よく、「恋人のケータイは見ないほうがいい」というが、盗撮された動画の音声というのも、もしかすると聞かないほうがいいのかもしれない・・ということを知った、8月の終わりだった。
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